第1回で取り上げた日本情報処理開発協会の「基本情報技術者試験」は,法律で内容が定められ,公的機関が試験を実施するもので,30年を超える伝統を誇るものであった。今回はぐっと違った味わいの試験を取り上げよう。「インターネット検定 .com Master(ドットコムマスター)」は,民間企業であるNTTコミュニケーションズが内容を決めて実施する,2001年に登場したホットな一品だ。

サポート・センターの要員確保に役立てようと企画

 この資格試験のユニークさは「合格すればサポート・センターなどへの就職が有利になる」ということだ。NTTコミュニケーションズ総務部インターネット検定・アウトソーシング推進室の吉見英弥担当課長はインターネット検定を始めたきっかけを「OCN運営の中でサポート・センターの人員確保が課題になったから」だと語る。

 OCNはNTTコミュニケーションズのインターネット接続サービスだ。現在のユーザー数は320万をかぞえ,月に30万件を超えるサポート要求が寄せられる。サポート・センターの要員は人材派遣会社から派遣してもらうが,実際に電話に出てもらうまでの教育が大変だ。要員増が間に合わないと電話がつながりにくい状況が生じ,OCNのブランドに傷が付きかねない。どういう人なら短い教育期間で仕事をしてもらえるだろうか,と考えたが,現在世の中にある特定の資格を持っているかどうかは適切な判断基準にならなかった。そこで,内部で研修後に実施していた試験を公にすれば,それがOCNのサポート人員確保に役立ち,社会貢献にもなると考えたのだという。

 現在では「人材派遣会社に,必須ではないけれど,できるだけ.com Masterの★(シングルスター)を持っている人を派遣してくれと言っている」(同)そうだ。そうなると,人材派遣会社は★取得を登録スタッフに推奨するようになる。「★スタッフはうちに限らず歓迎される。サポート・センターのオペレータ,電気店などでの販売員として★取得者を優先採用する企業は多い」(同)。

 NTTコミュニケーションズには在宅でサポート業務をする「CAVA(.com Advisor & Valuable Agent,キャバ)」と呼ぶ制度もある。こちらは★取得が必須で,そのあと適性検査と2週間の研修(70時間のWebベース・トレーニングと3日間の対面教育,研修費用は本人負担)を受けて採用されれば在宅でサポート業務をできるようになる。「2002年は350人くらい,2003年には500~600人になる」(同)という。

 もちろん,.com Masterになったからと言って,100%確実に職にありつけるとは限らない。しかし,ほかの資格試験に比べて,主催者がそれを強く意識しているのは確かだ。