IT資産の増大に伴い,運用担当者の業務も増えている。これを抑えるためにメーカー各社が打ち出したのが,「自律コンピューティング」だ。まだコンセプトの打ち出しと既存機能のマッピングが中心だが,サーバー分野を中心に,新しい要素技術が実装されつつある。各社の方向性を知っておきたい。

 2002年後半,メーカー各社が「自律コンピューティング」*のコンセプトを相次ぎ打ち出した。日本IBMの「オートノミック・コンピューティング」,NECの「VALUMO」,サン・マイクロシステムズの「N1」,日本ヒューレット・パッカードの「hp adaptive infrastructure」がそれだ。

 富士通は「オーガニック・サーバ」を研究所で開発中。日立製作所も近く同様のコンセプトを発表する予定で,大手コンピュータ・メーカーが出そろうことになる。

図1●製品への実装が進む自律コンピューティング対象分野の例
自律コンピューティングはあらゆる分野に関連する。現時点では,サーバー分野での機能強化が多い

 各社のコンセプト名は異なるが,目的とするところは同じである。パラメータの最適化や障害復旧といった,システム運用担当者が行っている作業をコンピュータ自身に担わせることで,増大する運用の負荷を抑えようというものだ。最終的には“アプリケーションのレスポンス・タイム3秒以内”といったサービス・レベルを設定しておけば「必要なすべての構成や設定をシステム自身が判断し,障害復旧や不正アクセスからの防御も行う」(日本IBM ビジネスコンサルティング サービス 技術理事 シニアコンサルタント ITアーキテクト 高安啓至氏)ことを目指す。特定の分野で機能拡張をしていくのではなく,ネットワークからサーバー,ソフトまですべての分野の製品が対象だ(図1[拡大表示])。

 もちろん,現時点ではコンセプトと実製品のかい離は大きく,実現のメドすら見えない。しかし,ITリソースの仮想化など自律コンピューティングを構成する要素技術は実装され始めた。今後は各社ともこのコンセプトの下で製品を提供する。自社の投資計画や運用体制の見直しのため,コンセプトを理解しておくことは重要だ。

 以下,多くのメーカーに共通するサーバー分野を例に,(1)現時点ではどのような機能が実装されているか,(2)それにより運用担当者はどのような作業から解放されるか,を見ていこう。

(1)どのような機能を実装しているのか
元はメインフレームの機能

 サーバー分野の中でも,各メーカーが力を入れているのは,リソースの仮想化である。アプリケーションが使うCPU数やメモリー容量を柔軟に変更できるようにするもので,負荷や障害に応じてリソースを動的に変更する必要がある自律コンピューティングの要素技術として欠かせない。

 IBMのメインフレームであるeServer zSeriesが2001年に搭載したIRD(Intelligent Resourse Director)機能が,コンセプトを具現化したものである。このIRD機能を,下位サーバーや複数サーバーに展開させるのが,基本的な考え方だ。

 IRD機能とは,CPUやメモリーを論理パーティション(LPAR*)に分割し,各LPARの負荷に応じてリソースを動的に割り振るもの。各LPAR上で稼働するソフトWorkLoad Managerがリソースの稼働状況を監視している。あらかじめ設定してあるポリシーに基づき,WorkLoad ManagerがLPARを管理しているhypervisor*にリソース割り当て変更の命令を出す仕組みだ。特定のLPARのリソース負荷が高まったり,障害が発生したりすると,他のLPARからリソースを分けてもらうことで,高い負荷に自動的に対応したり,耐障害性を高めたりできる。

図2●サーバー仮想化の仕組み
複数サーバーを統合して仮想化するHPのUtility Data Center。IBMのLPARのようにサーバーのきょう体内を仮想化する方式もあるが,ITリソースのプールを用意しておくことでサーバー増設時の作業を減らすという狙いは同じ

 サーバー・メーカーのアプローチは2通りある。一つは,1台のサーバーの中で,パーティションを管理するハードと,負荷などを見ながらそれを動的に変更するOSの両方に機能を持たせて実現する。IBMがこちらで,国内で10月に出荷した「AIX 5L V5.2」はダイナミックLPAR機能を備え,「eServer pSeries」でもLPARを動的に設定・変更できるようになった。

 もう一つは,複数サーバーを束ねて仮想的に一つの巨大なサーバー・ファームを構成し,その中でアプリケーションごとに割り当てるサーバーを簡単に変更できるようにする方法だ。日本HPが12月に発売した「Utility Data Center」がこちらのタイプである(図2[拡大表示])。稼働中のアプリケーションのリソース使用量に応じて,割り当てるサーバーをGUI画面で設定するだけで済む。ハードやOSは既存製品をそのまま使えるが,構成情報を管理し各ノードに設定変更を指示するミドルウエア「ユーティリティ・コントローラ」が対応する製品に限定される。各サーバーの稼働状況は,運用管理ツール「hp openview」経由で取得する。障害発生時には当該サーバーを論理的に切り離し,他のサーバーと入れ替えることで,耐障害性も高められる。

(尾崎 憲和=ozaki@nikkeibp.co.jp)