
ユーティリティ課金による製品提供が広がっている。2000年暮れにサーバー・ベンダーがオン・デマンドのCPU拡張サービス*1を始めたのを皮切りに,2001年にはソフト・ベンダーが相次いで採用。データベースや入力支援ソフト,CADなどの各ベンダーがユーティリティ課金の仕組みを取り入れている。最近ではソフトとハードを組み合わせたハイブリッド型の提供も始まった(表1[拡大表示])。
ユーティリティ課金とは,製品を購入する時に一括して代金を支払うのではなく,使った時に使った分だけ料金を支払う方式。インターネット接続サービスでは従量課金として一時普及したが,この考え方をソフトやハードを含むあらゆるITリソースに適用するものである*2。
ユーザーの利用実績に応じて課金する測定方式と,あらかじめ度数キーなどを購入しておき利用のたびにそこから引き落とされるプリペイド方式がある。ただしユーティリティ課金とうたっている製品もあれば,オン・デマンド,従量課金などと称するものもある。ここでは先に挙げた考え方に沿う課金体系をユーティリティ課金と総称する。
処理量が予測困難なシステムに向く
今のところユーティリティ課金は,大きく2つのケースに向いている。一つは,ECサイトなど時期やイベントにより処理量が大きく上下するシステム。一般にシステム構成は,ピーク時の負荷に合わせて設計せざるを得ない。しかしピーク時以外の時間はシステムが遊んでしまうため,その分が結果的に過剰投資になってしまう。そこをユーティリティ課金でカバーするのである。
ぴあは,オンライン・チケット販売用のシステムに日本IBMの「繁忙期対応サービス」を採用した。通常時は6台のWWWサーバーと2台のデータベース・サーバーを日本IBMにホスティングしている。これで1日平均5万~10万人のアクセスを処理している。しかし「1年に1回あるかないかの大型イベントだと,現在の構成で耐えられるか心配。その時だけサーバーを増設できないか日本IBMに相談し,繁忙期対応サービスの採用を決めた」(エンタテインメント事業本部ネットワーク事業部デジタルマーケティング部部長 毎熊秀実氏)。
これまでに2回,このサービスを利用した。この4月にもスポーツの世界大会用に利用を計画している。ホスティングのマシンを増設すると1000万円近くのコストが必要だが,繁忙期対応サービスを使うことで200万円程度で済む見通しだという(図1[拡大表示])。年に4回まで同様の使い方をするなら通常のホスティングより大幅に安くなる。
ユーティリティ課金が向くもう一つのケースは,システムの利用頻度が低いシステムである。設計事務所の建築計画工房は,CADソフトPALTIO4をユーティリティ課金で1年前に導入した。PALTIO4は普通に購入すると16万8000円。建築計画工房の場合,ソフトの利用頻度が比較的低いので,この出費は大きい。ユーティリティ課金を使うことで「だいぶ得をした。1日平均3時間程度ソフトを使っているが,1年で1万5000円しか課金されなかった」(建築計画工房 齋藤友幸氏)。
この程度の使い方を続けるなら10年間は割安に使い続けられる。それ以降は計算上割高に転じることになるが,実際にはバージョン・アップのたびに新製品を購入することを考えれば,コスト削減の効果はさらに大きくなる(図2[拡大表示])。
CADソフトFILDERの販売にユーティリティ課金を適用したダイキン工業 電子システム事業部第一部長 西森幸夫氏は「ソフトを定常的に使い続ける人は購入した方が安い。しかしユーティリティ課金は初期投資を大幅に減らすため,これまでソフトを使うことをためらっていた人も購入しやすくなる」と説明する。FILDERは製品価格250万円,保守料12万円だが,ユーティリティ価格の場合は年間1000円の基本料金のほか1時間299円のみ。
いわきテレワークセンターが導入した入力支援ソフトSES(Secured Entry System)は「普通に購入すると1000万円以上する」(構築を担当したアグレックス 執行役員MSS事業部長兼CRMソリューション部長の山本昌男氏)ソフトだが,入力文字数に連動するユーティリティ課金の採用で「製品に対する初期投資はPCサーバー*3のみの数十万円で済んだ。課金のベースとなる入力文字数は売り上げにも連動するので合理的だ」(いわきテレワークセンター社長 会田和子氏)。