情報システムの集中化などにより,災害対策の必要性が高まっている。一方で,WANサービスの低価格化から,オンラインでリモート・サイトにバックアップすることが現実解となってきた。リモートでのディスク間の複製機能やフェール・オーバーは,コストがかかるが即時復旧も可能だ。選択の幅が広がり,コストと必要な対策レベルを検討すべき状況になってきた。

 火災や地震でのビル倒壊などによるシステム障害は,ローカル・サイト内のデータ・バックアップやクラスタリングでは対応できない。こうした障害は発生確率が低いものの,近年のデータ集中化や業務のシステム依存度の高まりから障害による企業のダメージは大きくなっており,対策の必要性は高まっている。ホストを本社に集中させたインテリア商社のサンゲツでも一極集中化によって災害におけるリスクが高まったため,「2極体制によるレプリケーションを検討し始めた」(管理本部 情報システム課 課長 宗雪研也氏)。

図1●災害対策に向けたシステム・バックアップの手法が多様化
データのバックアップをテープに取って,他所の金庫に保管するなどの既存の方法に比べ,より短時間に,かつ入力データの消失が少ない形で復旧するためのバックアップ手法が出てきた
 災害対策の手段は多様化してきている。これまでの災害対策は,データのバックアップを毎日テープに取って他所の金庫に保管する,といった“日週単位”が一般的である。これに加え,オンラインでリモート・サイトにバックアップまたはフェール・オーバーするといった,“時分単位”の対策が現実解になってきた(図1[拡大表示])。

 この背景の一つには,WANサービスの高速化/低価格化がある。「米国と比べて日本国内で災害対策用のシステム導入が進まなかった理由の一つは,WANのコストが高かったこと」(イーエムシー ジャパン パートナー営業統括本部 ストラテジック・パートナー部 アカウント・マネージャー 後藤哲也氏)。オンラインでリモート・サイトへ頻繁にデータを複製するには,十分なWANの帯域が必要で,これまではコストが高かった。それが今,比較的高速なWANの導入も敷居が低くなってきたのである。

必要レベルを見極めて選択

 リモート・サイトへのオンラインのバックアップを実現する手法には,大きく分けて(1)データベース管理システム(DBMS)の災害対策機能と,(2)ディスク装置が提供する災害対策機能,がある。(1)はスタンバイ・データベース(DB)と,(2)はクラスタリング・ソフトとセットで用いられる。特に(2)は,障害以前のトランザクションの消失がなく,かつ極めて短時間のリカバリが可能だが,コストは高い。“何日/何時間前までのデータが必要なのか”,“何時間/何日後までに復旧したいのか”のそれぞれについて必要なレベルを判断し,適切な対策を選択すべきだ。日本ヒューレット・パッカードでは,業務の必要性に応じた災害対策サービス「ビジネス・リカバリ・サービス」を提供している。そのメニューにおいて,ディスクの複製技術やクラスタリング・ソフトを使ったサービスも2002年5月以降に開始する。初期費用の目安は約3億9000万円である*1

 これらに比べ,データのバックアップをテープに取って金庫に保管する,といった“手作業”は,比較的コストも安い。毎日リモート・サイトに配送すれば,障害が発生しても1日前までのデータに復旧できる。復旧するまでの時間には,サーバー機の手配,バックアップ・データの配送,OSやミドルウエアのインストール,リカバリ処理などを考慮する必要がある。

 バックアップ・ツールはこれらの作業を支援する機能を備える。例えば“ディザスタ・リカバリ”機能がある。これを使えば,OSやアプリケーションなどディスクに置くデータを丸ごとリストアできる。OSなどのインストール時間分,リカバリ時間を短縮できる。VERITAS NetBackup DataCenter*2など,多くの製品が備えている。

 米LiveVaultのLiveVault*3は,テープをリモート・サイトに運搬する手間を無くし,バックアップの時間間隔も数分から数時間単位にできる機能を備える。指定した時間間隔で,リモート・サイトのサーバーに変更データ(ブロック単位)だけを送信する。そのため,比較的帯域が狭いWANでも,頻度の高いバックアップが可能だ。ファイルをクローズした時点で,送信されたデータから組み立てたファイルをテープに書き出す。DBMSではファイルをクローズしないため,DBMSの場合はデフォルトで6時間間隔にテープに書き出す。この間隔は「縮めることは可能だが,実用的ではない」(住商エレクトロニクス 販売推進本部 販売推進グループ長付 歌原昭彦氏)。DBでは整合性を取るために多くのファイルを要し,その容量が大きくなれば高い頻度でテープに取れないからだ。

(森側 真一=morigawa@nikkeibp.co.jp)