インターネットを使った企業間電子商取引“BtoB”に向けた動きが活発になっている。米国ベンダー各社の製品/サービス投入が本格化し,実際にそれらを利用したユーザーも登場し始めた。しかし,各ベンダーが描くシステム・タイプは様々だ。目的や企業規模によって選択肢は変わってくる。新タイプの調達システムの動向と,国内企業へのインパクトを探った。

図1●企業間電子商取引(BtoB)に着手するベンダー/ユーザー各社の主な動き
2000年後半からBtoBに向けた製品/サービスの提供が活発になり,先進ユーザー企業でシステムの実装が始まった。2001年にはさらに,ユーザー企業の動きが加速する勢いだ
 ソニーは2000年11月,インターネットを介して間接材全般を購買するためのシステム「SMAPS」を稼働開始した*1。構築には米Aribaのソフト/サービスを利用。SMAPSによって「購入価格が平均12~13%下がる。購入プロセスも(パソコン購入の場合)3~5日から1日に短縮できる」(プロキュアメントセンター センター長 川久浩一氏)と見ている。こうした“安価な購入”や“プロセスの効率化”を目的とした,インターネットを使った企業間電子商取引“BtoB”に向けた動きが,にわかに活発になってきた(図1[拡大表示])。

米国ベンダーの動きが拍車

 企業間で受発注に関するデータをやり取りするシステムはこれまで,大企業間におけるVAN(付加価値通信網)を使ったEDI(電子データ交換)から,購入側企業(バイヤー)が立てたWWWサイトによる情報共有システム“Web-EDI”へと発展してきた。ここにきて,バイヤーと販売側企業(サプライヤ)の両者が集まる電子市場“e-マーケットプレイス”や,企業のサーバー間でXMLを使って取引データをやり取りするシステムが,一気に本格化し始めた。

 背景の一つには,昨年後半からの米国主要ベンダーの日本市場への本格参入が挙げられる。特に,米Ariba,米Commerce One,米Oracleの動きが要注目だ*2。これらベンダーがソフト/サービスを揃えてきたことで,BtoBシステムが構築しやすくなった。

 Aribaはすでに登録サプライヤの獲得に乗り出し,「今年度中に1万社を目指す」(日本アリバ マーケティングディレクターの笹俊文氏)。ソニーのSMAPSでは約50社のサプライヤと接続している。Commerce Oneも2000年11月に日本法人を設立した。同社のソフトを使ってNTTコミュニケーションズがe-マーケットプレイスとして「.com Co-Buy」を立ち上げている。日本オラクルはe-マーケットプレイス「OracleExchange-jp.com」の試行サービスを2001年3月から開始すると発表し,サプライヤや各種サービス(与信や物流など)のパートナを集め始めた。

 一方で,「RosettaNet」の動きにも注目したい。RosettaNetは,PC業界や電子部品業界を中心としたBtoBのプロトコルを標準化する団体。2000年10月に日本の会員企業各社がパイロット運用を開始した。開始当初は,PC業界で11社,電子部品業界で12社が参加し,各々のパートナ間で実証実験を実施している。

 さらにRosettaNetの動きに合わせ,サーバー間連携による調達システムを構築するためのソフト“BtoBサーバー”の販売も相次いでいる。インフォテリアの「Asteria for RosettaNet」,米WebMethodsの「WebMethods for RosettaNet」,米Netfish Technologiesの「Netfish XDI System」などが,すでに実証実験で利用されている。

目的,企業規模で選択肢は異なる

図2●様々なタイプのBtoBシステムに発展へ
バイヤーとしてのBtoBシステムの実現手法に,新たな選択肢が増えてきた。新たな実現手法には,(1)1対多から多対多の接続へ,(2)WWWからサーバーtoサーバーのアーキテクチャへ,(3)独自仕様から標準仕様のプロトコルへ,といった方向がある

 様々なタイプの調達システムを構築する環境は整ってきた。だが,すべての企業にとって有効なソリューションとなる,万能なものは存在しない。

 例えば,Aribaのソフト/サービスは主にオフィス用品などの間接材の購買システムを大企業が構築する場合に有効であり,中小規模のユーザー企業ではコスト的に見合わない可能性がある。中小企業はむしろ,e-マーケットプレイスの利用を考えた方が良い。RosettaNetは,PC業界や電子部品業界といった特定の業界内で,部品や材料といった直接材の調達を前提としている。構築の中心は大企業だ。ただ,中小規模同士が直接材の供給,調達を容易に行えるe-マーケットプレイスも,業界ごとに構築が進んでいる。

 BtoBシステム構築のためにソフトやサービスを比較するためには,まずは各ベンダーがターゲットとしているシステム像を理解しておきたい。理解するための切り口はいくつかあるが,バイヤー側から見た場合,間接材の調達か直接材の調達かといった用途で区切ると分かりやすい(図2[拡大表示])。

 間接材中心の調達を行う新しいタイプには,(1)ソニーのSMAPSのようにバイヤーが中心となって構築する電子調達システム,(2)WWWサイトとして構築された電子市場であるe-マーケットプレイス,の2つがある。直接材では,(1)業界ごとに構築されたe-マーケットプレイス,(2)RosettaNetを代表とする,企業のサーバー間で直接データをやり取りするタイプ,がある。

間接材では企業規模が分かれ目

図3●新たに出てきた間接材中心のBtoBシステム
大きく分けて2つある。一つは,バイヤー企業がサーバーを立て,あらかじめ決まったサプライヤ各社と接続する方法。米Aribaの製品/サービスを利用したソリューションがこれに相当する。もう一つは,e-マーケットプレイスを利用する方法。バイヤー企業とサプライヤ企業が電子市場で取引する形である。e-マーケットプレイスを構築するための製品/サービスのベンダーとしては,米Commerce Oneが代表的と言える

 バイヤーから見た場合,Aribaに代表される電子調達システムとCommerce Oneに代表されるe-マーケットプレイスの利用とでは,実現できることやコストが大きく異なる(図3[拡大表示])。

 電子調達システムの形態は,バイヤーが社内にWWWサーバーを立てる。構築には,電子調達システムを構築するソフトを利用する。Aribaなら「Ariba Buyer」だ。社内ユーザーはWWWブラウザを使ってAriba Buyer上の電子カタログから商品を検索し,発注する。発注データはAribaが提供するネットワーク・サービス「ACSネットワーク」を介して,サプライヤに渡される。購入価格はサプライヤと事前交渉する必要があるが,大量購入を前提に安価な設定を引き出せるメリットがある。承認や伝票の動きといった購入の際の社内プロセスも効率化できる。ただし,初期導入費用は高い。Ariba Buyerの価格は年間発注量に比例するが,「メリットが享受できるのは(Ariba Buyerの価格が)2億円以上の場合」(笹氏)だという。

 e-マーケットプレイスを利用した調達システムでは,WWWサイトはユーザー側に必要ない。バイヤーはIDを登録するだけで利用できるため,初期導入費用は安い。例えば.com Co-Buyでは,10ユーザーIDで5万円からである。バイヤーは各社サプライヤが登録した商品カタログを検索して比較し,安い商品を選べる。ただし前述の電子調達システムのように,自社向けだけの特別価格を引き出すことは難しい。

 .com Co-Buyでは,「調達にかかるプロセス・コストの削減が主なメリット」(NTTコミュニケーションズ ビジネスプロダクト開発営業部 ビジネス開発部門 平井浩司氏)と見ている。サイト上で承認フローを管理するサービスを提供するほか,バイヤー内でのワークフロー・システムの開発を支援するサービスもある*3

サーバー間接続が今後要注目

図4●RosettaNetの標準規約を使ったBtoBシステム
接続する企業間でRosettaNet標準規約の利用に合意し,お互いのサーバーにそれを実装する

 直接材を中心とした調達システムの場合,業界ごとに構築されたe-マーケットプレイスは,従来のWeb-EDIシステムの発展系と言える。大企業のバイヤーが多くの取引先との情報共有をWWWサイト上で実現するWeb-EDIと比べ,e-マーケットプレイスは業界ごとに多対多で実現する。Web-EDIでは難しかった中小規模同士の受発注も,容易にシステム化できる。

 e-マーケットプレイスを利用するメリットは主に,新たな取引先を見つけることや,同時に多くのサプライヤに見積もり依頼を出すことで安価に調達することである。システム形態は,間接材のe-マーケットプレイスと同様にWWWサイトであり,ユーザーはWWWブラウザから操作する。安価に利用できる半面,社内システムとは分離されたシステムになりやすい。

 もう一つのタイプ,BtoBサーバーを利用したシステムの主なメリットは,社内外のプロセスを統合して効率化しやすいことにある。WebMethodsやAsteriaは,こうした企業間のサーバー連携システムの構築を支援するための製品だ。ただし,それを実現するには,取引先相手と事前に,どういうデータをどういうプロセスで送るか決めておく必要がある。自社の取引先グループで決めることも可能だが,RosettaNetの規約では,そうした取り決めを標準化している(図4[拡大表示])。

 規約には,(1)“製品出荷日”を“shipDate”とするといった「辞書」,(2)購入オーダーの管理プロセスなどやり取りするデータと手順を決める「PIP(Partner Interface Process)」,(3)HTTPやデータ署名方法などシステム実装のためのガイドラインを決める「RNIF(RosettaNet Implimentation Framework)――がある。こうした実装を自社で一から進めるのは大変だが,AsteriaやWebMethodsでは,社内システムのデータをRosettaNet用データにマッピングし,PIPやRNIFを選んでいくだけで,システムを構築できる。

 RosettaNetは米国のPC流通業界から始まり,電子部品業界や半導体業界に広まっている。一方,全業界にわたっての標準化を進めている団体として,ebXML Initiativeがある。2001年5月にebXMLの仕様が提出される見込みだ。両団体はアプローチの違いはあるが,同様な範囲で仕様を決めており,協力関係にもある。

 こうした様々なタイプのシステムが登場してきたが,いずれもユーザーの本格導入はこれからだ。前述のソニーでも,本社での利用が始まったばかりである。さらにここまで到達するまでには,「サプライヤへの説明会や価格交渉は結構手間がかかった。社内プロセスの運用も難しい」(川久氏)と,一足飛びではなかった。社内外の調整や社内システムとの連動などにどれだけのコスト,工数がかかるかを見極め,投資対効果を計る必要があるだろう。

(森側 真一=morigawa@nikkeibp.co.jp)