前回は受信側がビット誤りを検出したときに,送信側がフレームを再送して正しいデータを送り届ける再送方式について見ていきました。再送方式を機能させるには,送信側と受信側で,正しく合意された手順(プロトコル)が必要です。

 ACK(アック)やNACK(ナック)をやりとりし,一つひとつ確認しながら送信する方式をそうしたプロトコルの一つとして説明しました。またこれを改良し,ACKを待たずにある程度の数のフレームをまとめて送信する方法についても述べました。

 今回は前方誤り訂正(FEC:forward error correc-tion)と呼ばれる手法について説明します。FECは再送を行わずにビット誤りを受信側で回復する手法です。送信側は,元のデータに誤り訂正符号と呼ばれる情報を付け加えてから送り出します。

再送方式では間に合わない用途もある

 ビット・エラーの発生に対して再送方式を利用するメリットは確実性にあります。フレームの到着を一つひとつ確認するうえ,正しいフレームが到着するまで再送を繰り返してもらうので,送信側から受信側へ確実にフレームを送り届けられます。

 しかし,ビット誤りが繰り返して起こるような回線では,最初にフレームが送信されてから受信側が正しいフレームを受け取るまでに長い遅延時間が生じることがあります。送信側が再送したフレームにも誤りが発生すると,何度も再送が繰り返されるからです。

 このため,データの確実性よりリアルタイム性が重要な用途に再送方式の誤り回復を使うと,欠点が目立ってしまいます。例えば,動画や音声のデータを送る場合がそれに当たります。1秒間に30枚の画像が含まれる動画データを送ることを考えてみましょう。途中の画像が壊れていた場合は,30分の1秒以内に正しい画像が再送されないと,表示が間に合わないといった問題が起こります(pict.1[拡大表示])。

 FECはこのような用途の通信で誤り回復を行うため使われます。FECを使えば,受信側はデータが再送されてくるのを待つ必要がありません。つまり誤りによる遅延が小さくなるので,表示のタイミングに遅れることなく動画を表示できます。このように,伝送する情報の内容や用途に合わせて,誤り回復の手法を適切に選んで使う必要があるわけです。

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