100m先では信号はグシャグシャ

 1000BASE-Tの伝送は,こうして符号化されて送り出された信号を受信側で元通りのデータに戻してハイおしまいというわけにはいかない。

図5 信号の受信を妨害する主なノイズ
ギガビット・イーサネット対応のLANアダプタは内蔵するDSPでこうしたノイズを打ち消している。
 LANアダプタが送り出した電気信号は,途中でさまざまなノイズの影響を受ける(図5[拡大表示])。このため,100m進むころには元の信号とは似つかないほどグシャグシャに乱れてしまうのだ。つまり,ギガビット・イーサネットの受信側端末には,ノイズの影響を受けた信号を元の信号に直して確実に元のデータを復元する工夫が必要になる。

 ギガビット・イーサネットの伝送に大きな影響を与えるノイズには,大きくエコーと漏話の2種類がある(図5)。エコーはハイブリッド回路を使って同じより対線上で送信と受信を処理するために生じる現象。基本的にハイブリッド回路を使っても送信信号と受信信号を完全には分離できないため,送信した信号が受信側回路に流れ込んでしまう。

 一方,漏話は,複数のより対線をデータの送受信に使っているため生じる現象である。とくに1000BASE-Tの場合,データの送受信に4対のより対線すべてを使うため,2対しか使わない10BASE-Tや100BASE-TXよりも影響はずっと大きくなる。

 こうしたノイズは,LANアダプタやLANスイッチのPHYファイ(物理層)チップに内蔵したDSPで取り除く。具体的には,自分のより対線やほかのより対線で送ったデータと,受信したデータを比べて,同じ成分を見つけだして消去するといった処理を行っている(図5)。こうすることで,本来の受信信号を取り出すのである。

自動認識は10M/100M方式を使う

 最後は,異なる通信速度のイーサネット機器同士を自動接続するための自動認識(オート・ネゴシエーション)について知っておこう。

図6 相手の速度を自動認識(オート・ネゴシエーション)するしくみ
1000BASE-Tの場合,オート・ネゴシエーション機能は規格で実装が義務付けられている。
 1000BASE-Tの規格ではこの自動認識は実装が義務付けられている。しくみ自体は100Mイーサネットが採用している10M/100M自動認識のしくみをそのまま利用する。具体的には,機器同士をケーブルでつないだ際に,ファスト・リンク・パルス(FLP)と呼ぶ自動認識用の信号を送出し,お互いの通信速度や方式(全2重/半2重)を教えあって速度を決定する。もし,相手が自動認識に対応していない場合でも,10BASE-Tや100BASE-TX機器が出す特有の信号を受信して相手の速度に合わせるようになっている(図6[拡大表示])。

 1000BASE-Tではこの自動認識を,1000BASE-T機器同士でお互いのデータ受信につかうクロック・タイミングを合わせるためにも利用している。1Gビット/秒の速度になると,信号の送受信は非常にシビアになっており,相手と信号のやりとりのタイミングを厳密に合わせる必要がある。そこで,自動認識の際にFLPを使ってどちらの機器のクロックに合わせるかという主従関係(マスターとスレーブ)を決めるようになっているのである。