全2重通信はどう実現する?

 4対のケーブルを使ってデータを送信するのはわかったが,ここで一つの疑問が浮かんでくる。それは「データの受信はどうするのか」という問題だ。

 10M(10BASE-T)や100M(100 BASE-TX)のイーサネットでは,データを送信しながら同時に受信するという全2重通信が可能だ。もともと,送信と受信で別々のより対線を使って通信しているので,全2重通信を実現するのは簡単なのである。しかし,1000 BASE-Tの場合,4対あるより対線すべてを1Gビット/秒のデータを送るために使ってしまうので,送信と受信を別々のケーブルで行うというわけにはいかない。

図2 1000BASE-Tで全2重(双方向同時)通信を実現するしくみ
 それでは1000BASE-Tは全2重通信をサポートできないのか。いや,もちろんそんなことはない。実は,4対すべてのケーブルでデータを送信し,同時に受信するのである(図2[拡大表示])。

 このしくみを実現するために,1000 BASE-Tではハイブリッド回路と呼ぶ特別な回路を使っている。ハイブリッド回路とは,送信する信号(図2で右向き)と受信する信号(図2で左向き)をそれぞれの方向にだけ流せるように工夫した回路。ハイブリッド回路を使えば1対のより対線をデータの送信とデータの受信に共用できる。

家庭の電話と同じ技術を使う

 実はこのハイブリッド回路を使うしくみはなにも特別なものではなく,家庭の固定電話などでも使われている。電話線も1対のより対線を使って,こちらの声(送信データ)を相手に送りながら,同時に相手の声も受け取るという全2重通信を実現している。

 ただし,ハイブリッド回路を使って全2重通信を実現する場合,データ通信の障害となるエコー(ECHO)が発生してしまうという問題がある。エコーとは,自分の送った信号が相手側や自分のハイブリッド回路で反射して戻ってくる現象のこと。そこで,1000 BASE-Tにはエコーによる影響を取り除くしくみが必要になるが,そのしくみに関しては次の技術編で詳しく解説する。

 こうして,1000BASE-Tでも全2重通信を実現する。10Mや100Mイーサネットと同様,半2重の通信方式もサポートしながら,1Gビット/秒でデータを送りつつ同時に1Gビット/秒でデータを受信する全2重通信も可能である。「送信,受信とも500Mビット/秒で全2重だからギガビット・イーサネット」というわけではないことを理解しておこう。