いろいろとニュースが多い高速版のADSLサービス。ADSL事業者のBBテクノロジー,イー・アクセス,アッカ・ネットワークスの3社がそれぞれ異なる技術を使って12メガのサービス提供を競っている。でも,そうだとするとちょっと不思議。各社とも異なる技術を使うなら伝送速度も違って当たり前なのに,なぜ3社とも「12Mビット/秒」と横並びなのだろうか? 今回はその謎に迫って見よう。

 実は,ADSLを高速化する技術は,3社が共通で採用する技術と,各社が独自に採用する技術の2種類に分けられる。共通する技術は「S=1/2」と「フルビット・ローディング」の二つ。S=1/2はディジタル処理で作成するフレームのサイズを最大2倍に拡張し,伝送速度を向上させる技術。従来のADSLサービスの8メガという速度は,このフレーム長の制限で決められた。一方,フルビット・ローディングは,実際にデータを送るアナログの搬送波に最大限ビットを詰め込む技術。この二つの技術に加えて,BBテクノロジーは「Annex A.ex」,アッカは「C.x」,イー・アクセスは「トレリス符号化」という技術をそれぞれ取り入れる。

 細かい説明は省くが,現状の8メガADSLサービスにS=1/2とフルビット・ローディングの二つの技術を取り入れると,理論上の最大伝送速度は13.38Mビット/秒に達する。この速度から,誤り訂正用の冗長ビット分を差し引くと,下り方向の最大伝送速度は約12Mビット/秒程度になる。

 イー・アクセスは,ここにトレリス符号化という誤り訂正技術の一種を採用しSN比を稼ぐことで,12Mビット/秒という伝送速度をできるだけ維持する方針を選択した。

 一方,アッカ・ネットワークスとBBテクノロジーは,現状の8メガADSLで使っている伝送帯域を拡張し,伝送できるデータ容量を拡大するというアプローチをとる。具体的には,従来上り方向の伝送だけに使っていた低い周波数帯域を下り方向にも利用する。そのため,理論上の最大伝送速度は,14M~15Mビット/秒程度に向上する。

 C.xとAnnex A.exの違いは,基になっている規格が日本仕様のAnnex Cか北米仕様のAnnex Aかの差である。この違いは,最大伝送速度の理論値やISDNとの干渉によって受ける影響の違いにあらわれる。

 このように,各社で採用する技術が違うのだから速度も違って当たり前。それ以前に,ADSLは回線の品質や電話局までの距離によっても速度が変化する技術なので,一概にどの方式がどの程度の速度で通信できるかという指標は決めにくい。同様に,どの方式が最も高速かという点も条件によって左右されるので決められない。

 各社がいう「12メガ」は技術的に明確な裏付けがある基準ではない。ユーザーの立場としては,サービス名称の一部という程度に考えておくのがいいのかもしれない。

高橋 健太郎