インターネットを介して社内ネットワークにアクセスできるVPN(virtual private network)。インターネットを使っていながら安全にリモートから社内ネットを利用できるうえ,専用線を引かずに済むので経済的でもある。ADSLのような高速のインターネット常時接続回線と組み合わせて使うと,レスポンス速度の面でもあたかも社内にいるようにネットワークを利用できる。こうしたVPNを実現する低価格の製品が多くなってきた。今回はVPNのしくみと合わせて,低価格のVPNルーターを見ていく。

 VPNは,インターネットのようにだれでも使えるオープンなネットワークを,専用線のようなプライベートなネットワークのように変えてしまう技術。カラクリは,カプセル化,トンネル化と呼ばれる技術にある。VPNはLANを流れるパケットを一つのデータとして扱い,それをIPパケットに包んでインターネットへ流す。また,インターネットへ流すときには,データの暗号化も行う。これを受け取った側は,IPパケットからデータを取り出し,暗号化を解いてLANのパケットに戻す。このプロセス,つまりインターネットに流すパケットの暗号化とカプセル化を処理するのがVPNルーターと呼ばれる製品だ。ここで一つ注意がある。実は,VPNに使うプロトコルには2系統ある。一つはIPsec,もう一つはPPTPあるいはL2TPである。両者はまったく別物で,同じプロトコル同士でしか通信できない。どちらかのプロトコルだけに対応するルーターも多い。

 まずはPPTPから見ていこう。PPTPは主に,社内LANとインターネットの境界にVPNルーターを設置し,PPTPソフトをインストールしたリモートのパソコンからインターネットを介してVPNルーターにログインするといった使い方をする。すると,このパソコンから社内ネットへアクセスできる。こうした形態で使うケースが多いのは,Windows(98以降)が標準でPPTP接続ソフトを持っているから。社内LAN側に1台だけVPNルーターを置けば,社員は自宅や出先からWindowsパソコンを使って社内LANへアクセスできる。この手軽さがPPTPのメリットだ。社内LAN側に設置するVPNルーターには,低価格なコンシューマ向けのブロードバンド・ルーターが利用できる。例えば,ヤマハのRTA55iやRT56vなどがその代表製品である。RTA55iなら3万5000円前後で購入できる。

 一方のIPsecは,どちらかというとLAN同士を接続するケースに使うことが多い。ただ,IPsecの暗号化処理が意外と重いので,リモート側でADSLを使っていてもセンター側がソフトウエアで処理しているVPNルーターだとその高速性を生かせない。そこで,IPsecの処理専用のチップを搭載して高速化した製品がある。今年に入ってそういった製品が10万円前後で登場してきた。センチュリー・システムズのFutureNet XR-300/TX2DES(Web直販価格で6万4800円)とその上位機種XR-350/DES(同7万9800円)や,古河電工のFITELnet-F40(11万8000)などのブロードバンド・ルーターである。ネットスクリーン・テクノロジーズ・ジャパンのNetScreen-5XP(12万8000円)はファイアウォールから派生したVPNルーターだ。

山田 剛良