伝送路が一つでも全2重通信ができる

全2重通信は4線式が基本ですが,2線式でも実現できます。“AからBへ”の信号と“BからAへ”の信号が,同じケーブルを通っても混ざらないようにすればいいのです。実現方法にはいろいろな種類があります。

 一つには,周波数で分ける方法があります。二つの信号を違う周波数で変調すれば混ざりません。この方法は,2線式の加入者線(電話と最寄りの電話局をむすぶ電話線)を使って高速インターネット接続を実現するADSL(非対称型ディジタル加入者線伝送)などで使われています。

 また,時間で分ける方法があります。“AからBへ”伝送する時間と,“BからAへ”伝送する時間を分けて,伝送路を交互に使います。この場合,ケーブル上の信号の伝送速度は,元の信号に比べて2倍以上にします。こうすれば,一つの伝送路を交互に使っても,二つの伝送路を同時に使うのと同じようにデータをやりとりできます(pict.2[拡大表示])。半2重通信に似ているように見えますが,伝送方向を素早く切り替えるので,利用する人は切り替わっていることを意識しません。この方式はディジタル通信に適しています。

 時間で分ける方法の一つに「ピンポン伝送」があります。ISDNの加入者線伝送に使われていて,信号がケーブル上を交互に行ったり来たりするのでこう呼ばれます。ピンポン伝送では,1秒間に400回の速度で伝送方向を切り換えます。

 このほか,信号を分ける「ハイブリッド回路」と呼ぶしくみを設けて,送信信号と受信信号を分離する方法もあります。ハイブリッド回路は,音声程度の信号ならうまく動作しますが,高速な信号では送信信号が漏れて受信信号と重なってしまいます。このため,余分な信号(エコー)を打ち消す(キャンセル)ための回路を用意します。この方法は「エコーキャンセラ方式」と呼ばれ,欧米のISDN加入者線で使われています。