ネットワーク関連の技術資格ってなんのために必要なのか──。ネットワークに携わる若手技術者なら,こういう疑問を抱いたことがあるはずだ。技術の知識があれば,資格がなくても技術者としてやっていける。「できる技術者」を目指すなら,忙しい仕事の合間を縫って資格試験の対策をするより,最新技術を学び,実務経験をどんどん積んだ方がいいと考えるかもしれない。

 ネットワークの技術資格を取ることにはどんなメリットがあるのだろうか。現場の声を紹介しよう。

 例えば,電気通信主任技術者のような「公的な免許資格」の場合。通信事業者やインターネット接続事業者のような企業では,事業用の通信設備を総務省が定めた技術水準に適合させる必要がある。そのため設備の工事や保守・運用には資格を持った責任者を置くことが法律で定められている。こうした背景があるので,通信事業者や公共事業などの設備工事を請け負うような企業は,その条件として「免許資格を有した技術者を何人か要求されるケースもある」(NTT-ME)という。つまり公的な免許資格は,技術者の資格の取得状況が工事を受注できるかどうかを左右するので,企業にとって明確にメリットをもたらすといえる。

 では,ネットワーク関連機器やソフトウエアのベンダーが主催する「ベンダー資格」の場合はどうか。これも企業にとっては有利に働くらしい。「シスコシステムズのルーター運用の初級資格であるCCNAを持っているだけで,取引先の反応が違う」(中堅インテグレータのピセ)というのだ。こうしてみると,企業の職種にもよるが,ネットワークに関係した仕事をしているのなら,技術資格の取得は会社にとってメリットとなるケースが多そうだ。

 では,資格を取った本人のメリットはなんだろう。まず挙げられるメリットは,知識を体系化できるということ。資格取得へ向けた学習が,実務経験で学んできた知識を整理し,体系的に理解する契機になるのだ。もう一つは,希望する仕事があるなら,その能力をアピールする材料として技術資格が利用できること。例えばNTT-MEの酒井紀和氏は,「シスコの最高資格であるCCIEを取得したことで,周りの自分を見る目が変わった。自分にも期待に応える責任感が出てきた」と,仕事に良い影響があったと話す。同じくNTT-MEの広川隆洋氏は,「オラクルのベンダー資格であるORACLE MASTER Platinum資格を取得してからは,希望した仕事を任されるケースが増えた」という。

 ただし,こうした技術資格が転職など個人のキャリアアップに有効かというと疑問符がつく。大手インテグレータのネットワンシステムズに聞くと,「中途採用で資格の有無が決め手になることはない」とのこと。前出のピセも,「技術者の資格は実務経験との組み合わせで初めて価値を持つ。資格だけ立派でも実務経験や能力が伴わないなら,参考程度にしかできない」と話す。初心者向け資格に至っては,「IT系の一部の企業では,初級シスアドなどは募集要項に入っていることがある。有利不利ではなく必須条件」(大塚商会)のが現状だ。

 今回取材に応じてくれた現場の技術者は,「資格取得にはメリットがあった。取って良かった」と口をそろえる。仕事に近く,実務に結びつく資格なら恩恵は大きいと言えそうだ。資格に懐疑的な方も,資格取得のメリットをある程度認めていただけただろうか?

山田 剛良