スロット時間が最大距離を決める

 スロット時間を守るためにフレームの最小の長さが決まっていることはわかったが,ケーブルの長さやリピータ・ハブの接続段数といった制限はなにを基準に決まっているのだろうか。実は,これらにもスロット時間が大きく関係している。

 スロット時間の512ビット時間とは,512ビットを伝送できる時間だから,実際の時間はイーサネットの伝送速度によって違う。10BASE5や10BASE-Tの10Mイーサネットなら,51.2マイクロ秒,100Mビット/秒の100BASE-TXなら5.12マイクロ秒である。

 したがって,10Mイーサネットの場合なら,最も離れたパソコン間で51.2マイクロ秒以内にコリジョンが検出できなければならない。

ハブやケーブルで遅延が起こる

 ケーブル上を流れる電気信号は,導線中を真空中の光の約6~8割程度(18万k~24万km/秒)と非常に高速に伝わるが,それでも何百mという単位になるとマイクロ秒オーダーの遅延が生じる。例えば,1マイクロ秒で電気信号は180~240m程度しか進まない。また,間にリピータ・ハブがあると,そこでも大きな遅延が発生する。

図5 リピータ・ハブには接続段数の制限がある
 つまり,ケーブルの長さやリピータ・ハブの接続段数は,スロット時間を守るために,ケーブルやリピータ・ハブでの現実的な遅延を考慮した結果決まっているのである(図5[拡大表示])。

 これが100Mイーサネットになるとどうなるか。当然,100Mの場合は5.12マイクロ秒までしか遅延が許されないため,より条件が厳しくなる

 10Mビット/秒で始まったイーサネットは,このスロット時間の制限のために,100Mビット/秒になると,リピータ・ハブの多段接続に大きな制限が加わってしまった。接続するパソコンの数が増えたので,ハブを増設しようとしても,簡単に増やせいないのだ。これがもっと高速になれば,とても現実的な伝送距離は保てない。CSMA/CDの限界はここにある。

フレーム長と伝送距離は比例する

 ところで,もしスロット時間が512ビット時間よりも短いとしたらどうだろう。すると,最小フレーム・サイズは64バイトよりも小さくできる。ただ,その代わりコリジョン検出ができる距離も短くなってしまう。逆に長くすれば,伝送距離は長くできるが,最小フレーム・サイズが大きくなり,ムダが増えてしまう。

 実は,最近の遅延の少ないリピータ・ハブや特性の優れたケーブルを使えば,とくに10Mの場合は規定以上の段数やケーブル長でも通信できてしまう(図5参照)。通常,規格は余裕を持たせて作ってあるからだ。しかし,規格を守らずに10BASE-T環境でリピータ・ハブを5段以上つないだりすると,ある端末はまともに通信できるが,ほかの端末はコリジョンを検出できずにエラーを頻発し,原因がなかなかつかめない事態に陥る可能性がある。