1月上旬,ブロードバンド・ルーターをめぐるちょっとした事件が起こった。ブロードバンド・ルーターの製造メーカーのメルコとコレガが,製品の性能表示を巡り,相手の測定方法が正しくないと主張し合ったのである。

 きっかけは,メルコが,8MのADSL環境を想定したテストで同社製品の方がコレガ社製品よりも性能が上回っているとカタログに掲載したこと。対してコレガは,自社製品はFTTHのような高速サービスを想定したものであり,メルコの比較は性能がキチンと出せる条件で測定していないと,Webページで反論。ユーザーに「誤解しないように」と呼びかけたのである。

 どうしてこんなことが起こったのか。それは,「スループット」という基準のあいまいな値で性能を表記していたからだ。

 ブロードバンド・ルーターのメーカーの多くは,FTPサーバーとの間でファイルをダウンロードする時間を測定し,そこから1秒間に伝送できたデータ量であるスループットを算出し,性能として表記している。こうした値を使うのは,これが「ユーザー環境に近いデータだから」という。

 しかし,このやり方では,伝送するパケットのサイズによって性能が大きく変化する。パケット・サイズが大きいFTPでスループットを測れば,性能が高めに出るのだ。また,インターネット経由とイーサネット直結の環境では,制御パケットの伝送時間にも大きな差があり,「ユーザー環境に近いデータ」を測るのは容易ではない。

 では,ブロードバンド・ルーターの性能はなにを基準にすればいいのだろうか。

 それには,「ルーティング速度」が適しているのではないか。ルーティング速度は,これまでもルーターの性能を図る指標として使われてきた。パケットのヘッダー部分にあるアドレスを識別し,必要があればそれを書き換えて,あて先のポートに転送する--。これらの処理が1秒間にどれだけできるかで,ルーターの性能を決めるというものだ。ルーティング速度は,パケット・サイズの大小にかかわらず,ほぼ同じ値になる。利用するアプリケーションの種類に左右されないので,ルーターの真の実力を測れるのである。

 実測のスループットを表記するなら,伝送したパケット・サイズなどの条件もキチンと掲載すべきである。さらに,典型的なパケット・サイズで実施した結果をいくつか併記するのが望ましい。

斉藤 栄太郎

関連リンク
メルコのカタログ
コレガのプレスリリース