ここ数カ月,ADSLインターネットの高速メニューが相次いで発表された。ちょっと前までADSLの最高速度は1.5Mビット/秒だったが,今では多くのインターネット接続事業者が「最大8Mビット/秒」のADSLインターネットを用意する。この高速ADSLインターネットのWebページをのぞいてみると,「G.992.1(G.dmt)でAnnexCに対応」のような規格名称らしきものが書かれてある。さて,これらの用語は何を意味しているのだろうか。

 G.992.1,G.dmt,AnnexCは,どれもADSL技術の仕様名称である。G.992.1は正式な規格名,G.dmtは規格名の俗称,そしてAnnexCは正式な規格に付け加えられたオプション的な規格の名称だ。ADSL関連の仕様名称は,たいていこれら3種類のどれかに属している。

 ADSLの代表的な正式規格としては,G.992.1とG.992.2がある。どちらも,電気通信分野の国際的な標準化団体であるITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)が作成した。ITU-Tは作成した国際標準を「勧告」(recommendation)と呼び,それぞれのジャンル別に勧告名称をグループ化している。ADSL関連の勧告はすべて先頭にGが付く。これは,伝送システムや伝送メディアに関する標準であることを示す勧告群「Gシリーズ」に含まれているからだ。

 992.1と992.2は勧告番号である。G.992.1は最大速度が6Mビット/秒以上の高速版。G.992.2は最大速度が1.5Mビット/秒程度の簡易版仕様である。最近流行の高速ADSLは,高速版のG.992.1に準拠するADSLモデムを使って,最大8Mビット/秒を実現しようというものだ。

 勧告番号は数字の羅列なので,それを見ただけでは内容がわからない。そこでしばしば,内容がわかるような呼称が使われる。G.992.1はDMT(discrete multi-tone)という変調方式を使うので,「G.dmt」と呼ばれる。一方のG.992.2は簡易版仕様であることから,「G.lite」と呼ばれている。ちなみにこれらの俗称は,通常,ITU-Tが標準化作業をしているときに命名される。作業段階では勧告番号が決まっていないので,正式名称で呼ぶことができないからだ。俗称は,規格開発における開発コードといえるだろう。

 最後のAnnex(アネックス)は,規格本体の付録に相当する規定。G.992.1/2はいくつかAnnexを持つが,そのうちAnnexAとAnnexCは地域別の仕様として開発されたもの。AnnexAは北米の通信環境を想定して作られた仕様,AnnexCは日本のISDN回線と干渉しないための仕様である。

 整理すると,「G.992.1(G.dmt)でAnnexC対応」というのは,「変調方式にDMT方式を使う高速版ADSLで,ISDN回線との干渉を回避するしくみを持つ」ということになる。

半沢 智