山本 和彦

 半角英数字だけでなく,漢字やひらがなも使える多言語ドメイン名(国際化ドメイン名)――。利用できないのにもかかわらず,登録者が殺到している。このままドメイン名の数が増加していくとDNSが破綻するかもしれないと考える筆者は,目的のWebページへ誘導させるためだけなら,もっと便利なしくみがあると指摘する。それが,今でもすでに使えるキーワード・サービスだ。(本誌)

 mcdonalds.comに関する有名な記事が掲載されたのは,米Wired誌1994年10月号である。マクドナルド社の社員でもない著者が,このドメイン名を取得できたこと,そしてマクドナルドのような大企業がその意味を理解してないことを,問題として提起した。これ以降,ドメイン名は商標に準ずるほどの価値があると一般に見なされるようになり,世間の反応は過剰になる一方である。

 残念なことに,これまでインターネットには使いやすい「水先案内サービス」が普及していなかった。このため,その役割がドメイン名に押しつけられてしまった。社名のみならず,企業が自社の製品名をこぞって登録していることは周知の通りである。このような状況下では,「まずドメイン名ありき」という思 考に陥ってしまっても仕方ない。

図1 今すぐ使えるキーワード・サービスの概要
Internet Explorer5.0以上のWebブラウザを使えば,URL入力欄にキーワードを入れるだけで,対応するWebページが表示される。

みんな冷静になろうよ!

 そして,この延長として,半角英数字以外を使用する国際化ドメイン名を使いたいという要望が生まれた。現時点では,まだ利用できない国際化ドメイン名の登録にユーザーが殺到し,訴訟さえ起こっている現状を見るに,混迷も極まった感がある。

 インターネットの健全な発展を願う技術者の一人として私は言いたい。「みんな冷静になろうよ」と。少し立ち止まり,よく考えてみてほしい。例えば,「www.東京大学.jp」というドメイン名で,東京大学のWebページにアクセスすることが,本当の望みなのか――。

 素直に考えれば,単純に「キーワード」だけで目的のWebページにたどり着きたいと思うはずだ。この例で言えば,単に「東京大学」と入力し,東京大学のWebページへアクセスするのが自然だろう。

 この種の水先案内サービスは,「キーワード・サービス」と呼ばれる。国際化ドメイン名と決定的に違うのは,キーワード自体の自然さに加えて,すでに利用可能であるという点だ。

 そんなことは初耳だという方も多いかもしれないが,実際にすでに利用できる。Internet Explorer(IE)5.0以上のURL入力欄に,例えば「日経BP」と入力すれば,www.nikkeibp.co.jpのWebページが表示される(図1[拡大表示])。

 キーワード・サービスこそ,みなさんが求めているものではないだろうか。本稿では,キーワード・サービスの普及を願い,サービス形態としくみを解説する。また,国際化ドメイン名の問題点を洗い出し,両者を比較してみる。

キーワードとURLが一対一に対応

 まず,キーワード・サービスを正確に定義しておこう。キーワード・サービスとは,あるキーワード(文字列)を一つのURLに変換するサービスである。キーワードとURLの対応関係は,後述するキーワード・データベースにあらかじめ登録されている。例えば,「日経BP」というキーワードに対し,http://www.nikkeibp.co.jp/というURLが登録されている。

 キーワード・サービスに対応しているWebブラウザは,ユーザーが入力した文字列がURLではないと判断した場合,なんらかの手段でキーワード・データベースへアクセスし,キーワードに対応するURLを得る。そして,取得したURLのWebページを表示するのである(図1参照)。

 筆者が知るかぎり,キーワード・サービスに対応したWebブラウザはIE5.0以上だけである。しかし,IE5.0以上の利用者はWebブラウザ・ユーザー全体の7~8割を占めると言われており,多くの人がすでにキーワード・サービスを利用できる環境にある。

 IE5.0以上では米リアルネームズのキーワード・データベースを利用する。つまり,企業はリアルネームズからキーワードを購入し,対応するURLを登録しておけば,IEユーザーを目的のWebページへ誘導できる。

 このキーワード・データベースは,言語ごとに分けて管理されている。例えば,「SONY」という文字列に「言語情報」を付加して,日本語の「SONY」や英語の「SONY」というように区別できる。日本語の「SONY」はwww.sony.co.jpを指し,英語の「SONY」はwww.sony.comに対応させるような使い方ができる。言語はWebブラウザが自動的に指定する。実装にもよるが,ある言語用にカスタマイズされたWebブラウザは,その言語を指示するのが一般的である。例えば,日本語ブラウザは日本語を指定する。