ネットが遅いのは,プロバイダや回線に問題があると思いがち。多くの人は,ちょっと不満に感じてもそのまま使い続けているはずだ。ところが,パソコンの設定が適切でないケースもある。そうした場合は,設定をちょっと変えるだけで体感速度が速くなる。今回はそんなテクニックを紹介しよう。

 インターネットにアクセスするとき,自分のパソコンがどうやってIPパケットをやりとりしているか観察したことがあるだろうか。IPパケットの最大長は規格上65535バイトであるが,実際は下位レイヤー(データリンク層)のプロトコルの制限を受ける。例えばイーサネットで運ぶときは,イーサネットで運べる最大フレーム・サイズで運ばれる。最大フレーム・サイズは,通常イーサネットのヘッダーを含む1518バイトである。

 こうしたことから,データを送り出すパソコンのOSは,あらかじめデータリンク層に合わせてIPパケットを作っている。このとき指定されるデータリンク層ごとのIPパケット最大長をMTU(maximum transfer unit)と呼ぶ。実はこのMTUサイズを適切に設定しないと,通信回線の速度を最大限に引き出せないことがある。

 Windows98以降では,OSが回線速度に応じてMTUサイズを変えてくれる。128kビット/秒以下なら576バイト,それ以上なら1500バイトとなる。もっと細かく指定したいときは,ネットワーク設定のプロパティで「ダイヤルアップアダプタのプロパティ」を開き,その詳細設定をクリックすると「IPパケット・サイズ」を選べる。選択肢は,自動,小,中,大。小は576バイト,中は1000バイト,大は1500バイトである。

 MTUに関して,とくに最近話題になっているのは,ADSLサービスを使う場合のMTU値である。NTT地域会社のフレッツ・ADSLなどのサービスでは,ADSLモデム間でのやりとりにイーサネット・フレームにPPPフレームを格納する「PPPoE」(PPP over イーサネット)と呼ぶプロトコルを使っている。このプロトコルを使うと,IPパケットにさらにPPPヘッダーが付加されてからイーサネット・フレームに格納されるので,MTUサイズは1454バイト以下にしておいたほうがいい。1500バイトのままだと,一つのイーサネット・フレームの中にIPパケットが収まらなくなるので,IPパケットを分割(フラグメントと呼ぶ)し,二つのイーサネット・フレームで送ることになる。フラグメントの分だけ処理が増えるので,「速度が遅いな?」と感じることがある。

 MTUサイズはレジストリに登録されているので,レジストリをいじると変更できる。レジストリとは,Windowsのシステム情報を記述したデータベースのこと。ただしレジストリには重要な情報が書き込まれているので,パソコンの上級者でなければ直接操作するのは避けよう。

 初級・中級者は,MTUサイズを変更できるフリー・ソフトのユーティリティを使うのがいいだろう。こうしたツールの多くは,MTUサイズのほか,IPヘッダーとTCPヘッダー部分を除いたデータ部分のサイズ「MSS」や,TCP利用時に応答確認(ACK)なしで連続受信できる最大ウインドウ・サイズ「RWIN」などのパラメータも調整できる。

 実際に設定してみるとわかるが,MTUサイズの最適値は利用環境によってさまざまだ。自分の環境で設定を変えて実験してみてはいかがだろう。

斉藤 栄太郎

関連リンク
MTU変更ツールの草分け的存在「MTUSpeed Pro」
Windows2000にも対応したMTU変更ツール「DrTCP」
MTUについて解説してあるWebサイト「SpeedGuide.net」
フレッツ・ADSLサービスの技術参考資料(2.3.2.3章にMTUサイズについての記述がある)