ネットワークやパソコンの技術で「G」（ギガ）という単位をよく見かける。ギガビット・イーサネットとか，○○ギガ・ヘルツ動作のプロセッサというようなケースだ。

　ギガの前には，「M」（メガ）という単位をよく目にした。ギガとかメガというのは，もともと国際単位系（SI）という国際規格で決められた用語で，「SI接頭辞」と呼ばれる。

　SI接頭辞の中でよく知られているのは，1000（＝10の3乗）倍を表す「k」（キロ）だろう。1kmとか1kgとか1kビット/秒のように使う。このほか，100分の1を示す「c」（センチ），1000分の1（＝10の－3乗）を示す「m」（ミリ），100万分の1（10の－6乗）を示す「μ」（マイクロ）なども国際単位系で決められたSI接頭辞である。

　Mは元の単位の10の6乗（＝100万）倍を表す。つまり1Mビットと書くと，100万ビットを意味するわけだ。GはMのさらに1000倍の10の9乗（＝10億）倍を表す。この先は，10の3乗倍ごとに，「T」（テラ），「P」（ペタ），「E」（エクサ）と続いていく。このように，SI接頭辞はおおむね1000（10の3乗）倍ごとに決められている。つまり，GはMの1000倍になる。

　しかし，コンピュータの記憶容量などを表記するときは，「G」が「M」の1024（2の10乗）倍になることがある。例えば，ファイルのサイズやメモリー容量を示す場合は，1Gバイト＝1024Mバイトとして表記する。同様に，1Mバイトは1024Kバイトを，1Kバイトは1024バイトをそれぞれ表す。つまり，1Gバイトは10億7374万1824（2の30乗）バイトになる計算である。

　つまり，コンピュータの記憶容量などを表記する場合の「G」，「M」，「K」は，SI接頭辞に似ているが，まったく違うものなのだ。これらは厳密には「2進接頭辞」といい，SI接頭辞と明確に分けらている。単に，2の10乗（1024）と10の3乗（1000）が比較的近い数値になるため，単位を表すアルファベットをそのまま流用したのである。

　なぜ1024（2の10乗）倍を使うかというと，コンピュータが2進数で動作するのが理由。コンピュータが2進数を扱うので，メモリーのようにデータのサイズに関連する数値は，なるべく2進数に準じた形で表現できた方が便利なのである。

　問題は，2進接頭辞に「G」や「M」といったSI接頭辞をそのまま流用したことにある。キロに関してだけは，1000倍を意味するときは小文字の「k」，1024倍の2進接頭辞なら大文字の「K」と表記して区別している。

　コンピュータ・ネットワークの技術文書などでは両者が混在するので，わかりにくいケースが多い。イーサネットや無線LAN，ADSLといった回線の伝送速度はSI接頭辞で表記する。一方，その回線を使って送るファイルのサイズは2進接頭辞になったりする。例えば「10Mバイトのファイルを11Mビット/秒の無線LANで送る」と言ったとき，前の「M」は2の20乗倍，後ろの「M」は10の6乗倍を意味するのである。

　実はこうした問題を解決するため，1998年に国際電気標準会議（IEC）がSI接頭辞に「i」を付加して2進接頭辞とする表記法を承認している。この方式では，2の10乗倍が「Ki」（キビ），2の20乗倍が「Mi」（メビ），2の30乗倍が「Gi」（ギビ）となる。一目瞭然で素晴らしい解決策なのだが，残念ながらあまり一般化していない。