通話料の安さを武器に,今後の普及が見込まれているIP電話。ただ,現状のサービスでは110番や119番といった緊急通報ができないのがネックになっている。そこで警察庁では,IP電話で緊急通報システムを実現するための実証実験を2004年春に始めるという。どういったしくみで実現しようとしているのか。今回はそこに焦点を当てる。

 警察庁では,IP電話による緊急通報に必要な技術的条件を四つ挙げている。それは,(1)緊急通報のデータの優先的な転送,(2)通報者の位置の特定,(3)最寄りの管轄本部への接続,(4)通報者への呼び返し――を可能にすることである。

 このうち(1)と(4)は比較的簡単に実現できると思われる。

 警察庁の技術案では,(1)の優先転送のために,IPパケットやMACフレームに優先順位情報を付けることを提案している。データに優先順位情報を付けて送り出す機能をIP電話機やVoIPゲートウエイに持たせ,同時にプロバイダ側もルーターなどで優先順位情報を扱えるようにする。

 (4)の通報者の呼び返しは,万一通報者との回線が切れてしまったとき,警察や消防側から通報者へ電話をかけ直すために必要になる。これは,発信者番号通知と同じしくみがあればよい。IP電話機やVoIPゲートウエイなどに,電話番号を通知するしくみを持たせることで実現しようという考えだ。

 では(2)の通報者の位置の特定はどうか。これができないと,(3)の最寄りの管轄本部への接続もできない。

 警察庁では,ユーザー宅にある機器のIPアドレスやMACアドレスから位置を特定できないかと考えている。これを実現するには,ユーザー宅のアドレス情報をキーにして,プロバイダが持つユーザー情報をリアルタイムに検索できるようにする必要がある。プロバイダのSIPサーバーなどに警察庁がアクセスできるようにすればよい。

 ただし,ユーザーが移動する携帯電話型のIP電話では使えない。そこで,IP電話機にGPS機能を内蔵させて,緊急通報時に位置情報を送信するしくみも提案している。

 ただ,こうした厳密なシステムを作ろうとすると,コストが膨大になり,実現までに長い時間がかかることになりそうだ。IP電話からの緊急通報システムの早期実現を目指すなら,警察庁が携帯電話型IP電話の位置特定に関して妥協する必要があるかもしれない。

半沢 智