総務大臣の諮問機関である情報通信審議会は2003年12月22日,日本国内に導入する第3世代移動通信(3G)の新方式の検討を始めた。新方式として最有力なのは,すでに米国で実用化された実績がある「TD-CDMA」(time division - code division multiple access)である。日本国内でも,通信ベンチャーのIPモバイルが2003年4月に試験免許を取得して,7月から実証実験を実施している。さらに,NTTコミュニケーションズ,ソフトバンクBB,イー・アクセスなどの通信事業者も,TD-CDMAを使ったサービスの提供に意欲を見せている。そこで今回は,TD-CDMAとはどんな方式なのか見ていこう。

 現在,日本国内で実用化されている3G方式は,FOMAなどで使われているW-CDMAと,KDDIが採用するCDMA2000の二つ。しかし,3Gの方式はこれら以外にもある。その一つがTC-CDMAである。

 TD-CDMAには,W-CDMAやCDMA2000と異なる大きな特徴が二つある。一つは上りと下りの速度の割合を自由に調節できること,もう一つは一つの周波数で上りと下りの双方向の通信ができることである。

 送信と受信の速度が異なるサービスといえば,ADSLが思い浮かぶ。上り方向の速度に比べて下り方向の速度を速くしたブロードバンド技術である。インターネットにつないでWebサイトにアクセスする場合,トラフィック量は上りに比べて下りが圧倒的に多くなるので,ADSLのような技術が考え出された。つまり,上りと下りの速度の割合を変えられるTD-CDMAは,ADSL同様,インターネット・アクセス向きの技術といえる。

 一つの周波数で双方向の通信ができるということは,周波数の利用効率が良いということだ。現在,日本国内で3G向けの周波数帯で空きがあるのは2010M~2025MHzだけ。この帯域で仮にW-CDMAを使おうとすると,上りと下りそれぞれに5MHz幅の電波が必要になるので,1事業者しかサービスを提供できない。それに対してTD-CDMAは,上り下りに同じ周波数帯を使えるので,1チャネルに5MHz幅の電波を使っても3事業者がサービスできる計算になる。

 これらの特徴から,TD-CDMAは電話ではなくインターネット・アクセスに向いた技術といえる。電話サービスを提供するにしても,VoIP(voice over IP)技術を使ったIP電話になる可能性が高い。

 ただし,ユーザーにとってどのようなサービスになるかは,まだ流動的である。情報通信審議会では,2004年4月に結論を出すことを目標に,TD-CDMAを採用するかどうかの検討を進める。そのあと総務省は,サービスとして音声通話を必須条件にするか,15MHzしかない帯域をどの事業者に割り当てるかなどを決める。

阿蘇 和人