10月28日午後6時51分と同30日午前5時49分,さらに11月5日午前4時29分に太陽の大規模なフレア(爆発)が観測された。普段は局地でしか見られないオーロラが日本各地でも観測されたというニュースを聞いた人も多いだろう。とくに11月5日のフレアは,放出したX線の量で1975年の観測開始以来最大の規模だった。フレアは,地球の地磁気や電離層を乱し,通信にも影響すると言われている。では,どんな通信にどの程度の影響を与えるのだろうか。今回はその辺りを探ってみよう。

 太陽は常に核融合を続けて燃えているが,時おり激しいフレアを起こしてX線や荷電粒子のガス,陽子などを大量に放出する。これらが地球に届くと,さまざまな影響をもたらす。

 地球は,地上60キロ~数百キロメートルにある電気を帯びた粒子の層(電離層)で覆われている。電離層は通常,短波(3M~30MHz)などの電波を反射する性質を持っている。しかし,フレアが発生すると,放出されたX線が電離層を刺激して,電離層が電波を吸収してしまう「デリンジャー現象」が起こる。つまり,フレアが発生すると,ラジオ放送や航空無線通信などに使われている短波が電離層で吸収されてしまい,放送や通信が途絶えることがあるのだ。

 人工衛星を使う衛星通信では通常,電離層の影響を受けない周波数帯の電波を使っている。しかし,フレアが発生すると電離層が刺激され,通信が不安定になるケースがある。衛星から送られてくる電波の到達時間を利用して位置を測定するGPS(全方位測位システム)などでは,正確な位置を測れないといった問題が生じる可能性がある。とはいえ,カーナビなどに搭載されているGPSは精度があまり高くないので,それほどの問題は起こらないとされている。

 また,フレアが大量に送出する荷電粒子ガスの衝撃で,地球の地磁気がゆがむ磁気嵐という現象も起こる。磁気嵐は電離層を利用した無線通信だけでなく,銅線のケーブルを使った長距離通信にも影響を与える場合がある。

 ただし,今回のフレアについては,発生した場所が地球を向いている部分ではなかったため,規模の割には大きな被害は出なかった。

 では,無線LANや携帯電話など,地上で無線を使う通信には影響がないのだろうか。通信総合研究所の平磯太陽観測センター長の秋岡眞樹さんに聞いたところ,「これらの通信は電離層とは無関係な通信ですから,あまり心配する必要はありません」という話だ。

塗谷 隆弘

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