一般オフィスから漏れる電波を遮断する電磁シールド設備が登場した。クマヒラの「e-wave AEGIS」がそれだ。電波を吸収するフィルムや壁紙などを使って,9割以上の電波を遮断する。「一般オフィス向けのシールド設備としては初めての製品です」(クマヒラ シールドシステム部の桝井嘉彦さん)と言う。なぜこんな製品が登場したのだろう。今回はここに焦点を当て,電磁シールドの効能を見ていこう。

 オフィス用の電磁シールド製品が登場した背景には,目に見えない電波が外に漏れたり中に侵入して,コンピュータ・システムに悪影響を及ぼすという現象がある。比較的知られているのは,セキュリティ上の危険。例えば,無線LANの電波は大部分がコンクリートの壁やガラス窓を通過してしまう。オフィス街でノート・パソコンを起動したら,アクセスできる無線LANがいくつも見つかるのはこのためだ。

 問題は無線LANだけではない。実はコンピュータ・ディスプレイも電波を漏らしていて,特別な設備を使えば,200メートル離れた場所でも表示した内容が読み取られてしまう。

 逆に,外部から入り込んだ電波による障害もある。隣のオフィスが無線LANを使い始めた影響で,突然速度が落ちたり通信できなくなったりすることもある。

 道路に面したオフィスでは,無線LAN以外の電波も影響する。トラックなどが搭載する違法な無線設備は,出力がラジオ局並みの数キロワットに及ぶ。「パソコン自体が誤動作することもあります」(桝井さん)。

 このような電波漏えいによる盗聴やトラブルを根本的に解決するには,オフィスの内側と外側の境に,電波が通らない壁を設ければいい。無線LANの盗聴といった問題だけであれば,暗号化など別の対策もあるが,それで電波に関連するすべての問題が解決できるわけではない。そこで電磁シールドの需要が出てくるのである。

 すでに,機密情報を扱う官公庁の一部などでは,電波漏えい対策を施した建物で業務をこなしている。ただ,設備は大がかりで,窓を無くしたり気密式の扉にするなど,特別な工事が必要。いわば金庫の中のような環境を実現するのだ。

 今回登場したAEGISはその簡易版と考えればいいだろう。遮へい率は90~99.3%。厳重な対策の遮へい率が99.99%を超えるのに比べれば低いが,それでも盗聴や速度低下への対策として十分意味がある。

 問題は価格。簡易版といっても,20~30坪程度のオフィスで数百万円もする。気軽に導入できるものではない。まだまだ特殊な企業向けだが,価格の低下に期待したい。

阿蘇 和人

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クマヒラの「e-wave AEGIS」