FTTH(fiber to the home)のような光ファイバを利用した通信サービスが身近になってきた。「光ファイバ」というと,銅線ケーブルに電気信号を流してデータを送る通信よりも速いイメージがある。それはなぜなのか。今回はそこに焦点を当てて見ていこう。

 光は1秒間に地球を7回半も回るスピードを持っている。これが,銅線ケーブルを使う電気通信より光通信のほうが速い理由だと考えるかもしれないが,それは間違い。なぜなら,通信でいう速度とは信号が伝わる速さではなく,データを送る能力のことだからである。信号が伝わる速度だけを見れば,銅線を伝わる電気信号と光ファイバを伝わる光信号で,そんなに大きな差はない。しかし,光ファイバを使った通信回線は銅線より,同じ時間ではるかに大量のデータを送れる。だから高速なのである。

 光ファイバの通信では,送信側で電気信号をレーザー光の点滅に置き換える。短時間に多くの情報を伝えるには,この点滅の回数を増やす。つまり,短い時間にどれだけ多く光をオン・オフさせられるかで,データ伝送速度は決まるのである。

 一方,銅線を使って電気信号を流す場合も考え方は同じです。電気信号をオン・オフしたり,プラス・マイナスの極性を反転させたりしてデータを送る。どれだけ速く電気信号をオン・オフしたり,極性を反転させたりできるかで,データの伝送速度は決まってくる。

 両者の違いは,光ファイバの方が信号を点滅させるスピード(周波数)の上限がケタ違いに高いことにある。これが光ファイバを使うと高速な通信が可能になる最大の理由である。

 銅線を使った通信では,電気信号のオン・オフだけでなくさまざまな工夫をこらして伝送速度の向上を図っている。例えば,より対線を使うギガビット・イーサネットでは,オン・オフの2値の情報ではなく,細かく電圧値を変えて一度に5値の情報を送るようにし,さらに4対のより対線を束ねてようやく1ギガビット/秒の伝送速度を実現した。ギガビット・イーサネットの伝送方式は,電気通信の技術として限界に近いところまで来ているといえる。

 それに対して光ファイバの通信は,すでに1本の光ファイバでギガビットの1000倍にあたるテラビット/秒クラスの通信が実用化されている。しかも,光ファイバ通信の速度は,まだまだ限界が見えない状況。米国のベル研究所が2001年6月に公開した試算によると,理論的には光ファイバ通信で100テラビット/秒までは十分に可能だという。現行の技術は,光ファイバのポテンシャルをぜんぜん使い切っていないのである。

 限界に近づいた電気通信技術に比べ,まだまだ発展の余地が残されている光ファイバの通信技術。光ファイバ通信技術の進化の度合いを電気通信技術に置き換えて見ると,現状の光通信技術は10数年前の1200ビット/秒のモデム程度のものと言えるかもしれない。

山田 剛良