IP電話サービスを使ってみたいと思っているのに,なんとなく踏み出せないという人は意外と多いのではないだろうか。理由はおそらく,サービスの裏側にあるしくみが見えていないからだろう。不安を解消するには,やはり実際に使ってみるのが一番。そこで,編集部でIP電話サービスを契約して,裏側で働いているメカニズムを探ってみた。すると,パンフレットなどからは読み取れない,さまざまな事実が見えてきた。

110番などの特番はどうなる?

 IP電話サービスを使ううえで押さえておきたいのが,「IP電話アダプタによる加入電話網とIP電話網の使い分け」である。IP電話サービスでは,IP電話アダプタと呼ぶ機器に加入電話回線とADSLなどのブロードバンド回線の両方をつなぐ。そして,ユーザーが電話をかけようとすると,アダプタがダイヤルされた電話番号に応じて加入電話網とIP電話網のどちらを使うかを判断して自動的に切り替える。

 なぜ,すべてをIP電話網経由にできないかというと,IP電話からかけられない相手がいくつか存在するから。例えば110番通報のような「特番」と呼ばれる番号は,現状のIP電話サービスでは,しくみ的にかけられない。発信元の場所を電話を受けた相手が特定できる必要があったりするからだ。また,携帯電話やフリーダイヤルなどの場合も,IP電話からかけられないことが多い。こういう場合,IP電話アダプタは,IP電話網経由ではなく,加入電話網を使って電話をかける。

 ここまでの話は,パンフレットを見れば載っていることが多い。しかし,このときに,どういった処理が行われているかは,どこにも載っていない。そこで,IP電話アダプタとプロバイダの間でやりとりされるパケットをLANアナライザでキャプチャしてみた。

 すると,IP電話アダプタは条件によって2通りの処理を行っていることがわかった。一つは,携帯電話やフリーダイヤルにかける場合。これらのケースでは,IP電話アダプタはダイヤルされた電話番号を使って,とりあえずプロバイダに問い合わせる。すると,実際にはかけられないので,プロバイダからは「加入電話に切り替えなさい」というメッセージが返ってくる。このメッセージを受けとったアダプタは,加入電話回線に切り替えて電話をかけ始める。

 もう一つは,110番などの特番にかけるケース。IP電話アダプタはプロバイダとのやりとりを行なわず,即座に加入電話網を使って電話をかけた。IP電話アダプタには,最初から特番の電話番号が登録されており,どちらを使えばいいかすぐに判断できるようになっているのだ。こうすることで,プロバイダとの無駄なやりとりを省き,電話をかけるまでの時間を短縮している。ただ,どういう電話番号なら,どちらのパターンを使うかは契約するプロバイダやアダプタによって異なる可能性はある。

話さなくてもパケットは流れる

 音声のやりとりについても,いくつかわかったことがある。その一つが,「なにも話さなくてもパケットは流れる」という事実だ。

 IP電話サービスでは,ディジタル化した音声を細切れにしてIPパケットに乗せてやりとりする。このため,なにも話さないときは音声データがないので,パケットを送らなくてもいいように思える。しかし,実際にパケットをキャプチャしてみると,常にパケットはやりとりされていた。

 技術的には,なにも話さないときはパケットを送らないようにできる。そうしない理由は,「無音」の判断が難しいからである。無音の判断が適切でないと,話している声の終わりが途切れたり,小さな声を取りこぼしたりしてしまう。IP電話サービスは数Mビット/秒といったブロードバンド回線での利用が前提なので,IP電話で流れる100kビット/秒程度の帯域はぜいたくに使ってしまおうという考えのようだ。

 050番号を使ったIP電話サービスは,これから家庭だけでなく,会社にもどんどん入ってくる。今のうちに,IP電話サービスに関する実践的な知識と,裏側で動いているメカニズムを身につけておけば,いざというとき必ず役に立つはずだ。

斉藤 栄太郎