ADSLを長く使っていると,だんだん速度が低下していく。もしそうなったらモデムを再起動するしかない――。こんな話を耳にしたことはないだろうか。比較的よく耳にするこの話,実は「半分ウソで半分ホント」である。どういうことなのか,今回はここに焦点を当ててみよう。

 これを理解するためには,まずADSLの通信の前にモデム間でどのようなやりとりをしているのか知る必要がある。

 ユーザー側でADSLモデムの電源をオンにすると,電話局側にある集合型ADSLモデム(DSLAM)との間で制御情報をやりとりする「ハンドシェイク」が始まる。これが済むと次が「トレーニング」である。トレーニングでは,ADSLの伝送に使う多数の周波数帯域(これをビンと呼ぶ)ごとにノイズの状況などを調べ,そのビンで伝送するビット数を決める。

 つまり,トレーニングの時点でADSLのリンク速度は固定的に決まってしまう。エラーが起こって時間当たりのデータ転送量が少なくなることはあってもリンク速度自体が変化することはない。だから,長く使うほどADSLの速度が徐々に落ちていくというのはウソである。

 ただし,ADSLのリンクはユーザーがモデムの電源を落とさなくても勝手に切れてしまうことがある。例えばノイズの増加によって通信状態が悪くなり,エラーが頻発したときなどである。

 リンクが切れると,すぐに再トレーニングが始まり,再びリンクが確立する。ただ,このときリンクが切れる原因となったノイズがまだ残っていれば,再びリンクしたあとの速度は元より落ちる。トレーニングで決まったリンク速度は固定なので,仮にそのあとノイズがなくなってもリンク速度が上がることはない。長い間ADSLモデムをつけっぱなしにしているほど,こういうことが起こる可能性は高くなる。これがリンク速度が勝手に低下したように見える原因である。

 こういう場合,ユーザーがモデムを再起動すればリンクが張り直され,速度がアップする可能性がある。よく耳にする話は,対策としては合っているのである。

斉藤 栄太郎