ノート・パソコンや携帯電話を持ち歩いている最中に「バッテリが切れるのでは」とヒヤヒヤした経験はないだろうか。こんなとき,「ちゃんと充電しておけばよかった」と後悔したり,「どこかに電気のコンセントがないかな」と辺りを見回してしまったりする。でも,もしかしたらこんな心配とはおさらばできる時代が来るかもしれない。というのも,無線の電波で電気を送る技術の研究が進んでいるからだ。

 この技術,専門用語で「マイクロ波送電」と呼ばれている。そもそもの発端は「SPS」(solar power satellite)という構想。これは,宇宙に巨大な太陽電池発電所を作り,そこから電波で地上のアンテナに電力を送って発電所の代わりにしようというSFみたいなアイデアである。巨大な宇宙発電所を建造して24時間365日発電し続けると,原子力発電所10基分の電力1000万キロワットの発電も可能だという。このマイクロ波をまんべんなく地上に降らせれば,携帯電話やPDAなどの携帯機器の電源としても使えるというわけだ。空から電気が降ってくるイメージは,ちょうど「パワー・シャワー」と例えるとわかりやすいかもしれない。

 ただ,SFのような壮大な計画なので,実現までには大きなハードルがいくつも待ち構えている。

 まず,電波が空から降ってくるとなると,人体への電磁波の影響が心配になる。マイクロ波送電の原理は,実は電子レンジと同じ。そのため,電磁波の出力に関しては現在でも規制があり,宇宙発電所から降らせるマイクロ波の出力を基準内に抑えなければならない。仮にこの規制をクリアする基準でマイクロ波に電力を乗せて送出しても,発電は可能である。

 でも,SPS計画にはもっと大きな問題がある。巨大な宇宙発電所の建設にはおよそ5万トンの資材を宇宙空間まで運ばなければならないのだ。これだけの資材を運ぶとなると,現在のH2Aより大きな20トン級のロケットが開発できても,2500回もの打ち上げが必要になるのだ。

 国内のSPS研究の第一人者である京都大学の松本紘教授は,「10年後から20年後に向けてまず,試験的に1万キロワット級の小さな宇宙発電所を作ることを目標に据えて実験などを進めている」という。総務省や文部科学省を中心に,国家プロジェクトとして検討も始まっている。

高田 学也

<日経NETWORK 2003年1月号では,未来のネットワークを支える最先端技術の研究が現在どこまで進んでいるのかを,国内の第一線にいる研究者に取材してまとめた特集記事「20XX年ネットワークはSFを超える,未来の技術が面白い!」を掲載しています。ぜひ,ご覧下さい>