無線LANの最高速度は,5GHz帯を使うIEEE802.11aの54Mビット/秒――。そう思っている読者が多いかもしれない。しかし,伝送速度を100Mビット/秒以上に高速化した無線LAN技術がすでに存在している。ターボ・モードがそれだ。海の向こうの米国では,72Mビット/秒や108Mビット/秒の速度をうたうターボ・モード対応の製品が売られている。しかし,日本国内でこうした製品が発売されたというニュースは聞いたことがない。なぜなのだろうか?

 そもそもターボ・モードとはどんな技術なのだろうか。まずはそこから見ていこう。

 ターボ・モードは,IEEE802.11aで規定した二つのチャネル分の周波数帯域を合わせて1チャネルとして使う方式。無線LAN用のチップ・メーカー米アセロス・コミュニケーションズの独自仕様である。

 IEEE802.11aでは1チャネル当たり約20MHzの帯域を使う。それを二つ合わせて約40MHzを1チャネルとして使うわけだ。その他の基本的な技術は802.11aそのまま。帯域を2倍に広げることだけで,伝送速度を54Mビット/秒から2倍の108Mビット/秒まで向上させたのである。

 つまり,ターボ・モードとIEEE802.11aを比べると帯域幅以外に大きな違いはない。でも国内ではターボ・モードは使えない。その理由はまさに,帯域を2倍に拡張した点にある。日本国内の電波の利用を定めた法律では,5GHz帯の無線LANの帯域幅を1チャネル当たり20MHz以下に制限しているのだ。

 こういった制限があるのは,5GHz帯の無線LAN用に割り当てられた周波数帯域が100MHz幅しかないから。現在,屋内用の無線LANに割り当てられている5GHzの帯域は,5150M~5250MHz。この帯域の中で,1チャネルの幅が20MHzの11aを使えば4チャネル分を確保できるが,40MHzに拡張したターボ・モードでは二つしか使えない。これでは,複数のアクセス・ポイントを設置し,電波干渉なく無線LANのエリアを面的に広げようにも,どこかで必ず同じ帯域を使わざるを得ない状況になり,広いフロアをカバーできなくなる。

 そうはいっても,IEEE802.11aの最高速度である54Mビット/秒の速度では足りなくなるケースも出てくるだろう。12メガのADSLでインターネットにつないでいるうちはIEEE802.11aで十分だが,光ファイバを使って100メガ・クラスでつなぐFTTH(fiber to the home)ではそうはいかない。無線LAN部分がボトルネックとなってしまうからだ。

 なんとか5GHz帯の無線LAN用に200MHz程度の帯域幅を用意し,国内でターボ・モードを使えるようにしてほしいが,電波を管理する総務省では残念ながらそうする予定はまだない。当面,国内のユーザーはじっと我慢するしかなさそうだ。

高橋 健太郎