国内の大学や研究機関を結ぶ学術用ネットワーク「スーパーSINET」が稼働した。国立情報学研究所(NII)が中心となって,「幹線が数十Gビット/秒クラスの世界最速のIPネットワークを目指した」(NIIの浅野正一郎教授)もので,なんでも“データを光信号のまま交換する大規模IPネットワーク”なのだそうだ。

 でも,データを光信号のまま交換する大規模IPネットワークって何だろう? そのしくみを探ってみた。

 光信号でIPネットと聞くと,光信号からIPパケットのIPアドレスを読み取り,それに従ってルーティングするルーターを思い浮かべるかもしれない。でも,今回スーパーSINETが構築した光ネットはそこまで進んでいない。ルーターとルーターを結ぶ1G~10Gビット/秒の通信路を,IPよりも低いレイヤーで,光信号のまま切り替える装置である光クロスコネクトを導入したのだ。

 光クロスコネクトは,光の伝送路を任意に作り出せる装置。似たモノに,太束の中継伝送路を接続したり切り替えたりするために通信事業者が導入するクロスコネクトという装置がある。このクロスコネクトは,光信号をいったん電気信号に戻してから切り替え,再び光信号にして送り出す。それに対して光クロスコネクトは,データを光信号のまま切り替える。電気信号の処理速度には限界があり,10Gビット/秒を超えるデータを扱うのは難しいからだ。

 光クロスコネクトのキモは,MEMSと呼ばれる微小な鏡にある。この鏡で,光ファイバから出てきた光を反射させ,別のファイバに入れ込む。鏡の一つひとつが半導体チップの上に載っており,電圧をかけて鏡の角度を変える。こうして光信号の行き先を切り替えるのである。

 光クロスコネクトの切り替え動作は,まだ動的なものではない。あらかじめ入り口の光ファイバに対して出口の光ファイバを手動で設定しておく。この設定情報を基にそれぞれの鏡が動作し,光信号の経路が出来上がる。また,経路に障害が起こったときのう回経路を設定しておき,一気に切り替えられる。

 今後の仮題は,IPのルーティングと連携してダイナミックに光の経路を切り替えること。それを実現するには,各通信事業者がIP-VPN(IP virtual private network)などの基盤ネットワークに採用しているMPLS(multiprotocol label swtching)という技術の活用が考えられている。

半沢 智

<詳しくは日経NETWORK3月号の「できごとズームイン」欄の関連記事をご覧下さい>