以前のHot Topics「電話番号の謎――ある日突然,市外局番が短くなったのはなぜ?」(1/14)で,市外局番と市内局番の区切りを変えるだけで電話番号の数を増やせると紹介した。この記事はことのほか反響を呼び,読者から多くの質問をいただいた。そこで今回,これらの質問に答えながら,電話番号の謎に,さらにもう一歩踏み込んでみることにしよう。
---------------------------------------------------------
■質問■
なぜ電話番号が増えるのか,しくみがいまいちわかりません。そもそも,市内局番を一ケタ増やせば,その市内で使える電話番号が増えるのは,当たり前のような気がしますが。
■回答■
この質問が結構多くありました。以前の記事と重なる部分があるかもしれませんが,電話番号が増えるカラクリをもう一度丁寧に見ていきましょう。
例として,0722-DE-FGHJを取り上げます。市外局番が3ケタ(市外局番を示す先頭の0は数えない)で市内局番が2ケタの場合です。まず,使える数字の制約を考えない場合,722以外の数字の組み合わせは,DE-FGHJの6ケタなので,100万個(00-0000~99-9999)になります。
ところが,DEが市内局番の場合,Dには0と1が使えません。市外局番を示す「0」(市外プレフィックスと呼ぶ)や特番(110,119,104など)と間違えるからです。このため,実際に使える番号の組み合わせは,DE-FGHJ(20-0000~99-9999)の80万個になります。
ここで,市外局番の722の最後の「2」を市内局番の先頭に回し,市内局番を2DEとすればどうなるでしょう。もはやDは市内局番の先頭ではないので,0と1も使えるようになります。だから,使える市内局番以下の電話番号は「2DE-FGHJ」(200-0000~299-9999)となり,その組み合わせは100万個になります。つまり,以前に比べて20万個の電話番号が増えることになるのです。
注意が必要なのは,電話番号の増減を論じている対象は,電話番号全体の9ケタのうち,「722」を除いた部分だという点です。つまり,「0722-DE-FGHJ」と「072-2DE-FGHJ」を比べているのであって,「0722-DE-FGHJ」と「072-CDE-FGHJ」(Cは2~9)を比較しているわけではないのです。
区切りの移動による番号の増加数は,もとの市内局番のケタ数によって変わります。見てきたように,元の市外局番が3ケタだと,区切りの移動で20万個の電話番号が増えます。元の市外局番が4ケタの場合はどうでしょう。例えば,08687-E-FGHJを0868-7E-FGHJとすることで,2万個の増加になります。
■質問■
市外局番が同じなのに,市内局番から電話をかけても通じず,わざわざ市外局番からかけなければならないケースがよくあります。これは,なぜなのでしょうか。
■回答■
市内局番から電話をかけて通話できる地域の単位は「単位料金区域」(MA;message area)と呼ばれています。MAとはつまり,市内料金で通話できる範囲のことです。電話するときに,市外局番からかけるのか,市内局番からでよいのかは,相手が同じMAにいるかどうかが基準になります。MA内の通話なら市内局番からかければよく,MA間の通話なら市外局番からかける必要があります。
ところが,市外局番が同じでもMAが異なる場合があります。多くの場合,MAと市外局番は一致していますが,例外もあるのです。理由は,MAと局番の区切りを管理している主体が違うためです。MAの範囲は,NTT東西などの電話事業者が決めています。一方,局番の区切りは,総務省が管理しています。だから,総務省が「電話番号の需要が増えたから」と市外局番のケタ数を減らしても(市外局番の範囲を広げても),それに合わせてMAが統合されるわけではないのです。このため,一つの市外局番に複数のMAが含まれるケースが出てきます。こうしたケースでは,たとえ市外局番が同じでも,異なるMAの相手に電話するには市外局番からかける必要があります。番号を増やすためにケタをずらしていくと,MAと番号区画の不整合が増える可能性が高まります。
読者から,こうした実例が寄せられました。以前,東京の小金井市と立川市は,それぞれ0423-DE-FGHJと0425-DE-FGHJのように別々の市外局番でした。その後,両方ともケタをずらしたため,市外局番が同じ「042」になりました。市外局番が同じなのだから,小金井市から立川市に電話するときは,5DE-FGHJと市内局番からかけたいところです。しかし,これでは通じません。市外局番からかける必要があるのです。これは,小金井市が国分寺MA,立川市が立川MAと,属するMAが異なるからです。
この例を見ると,ケタをずらして使える番号が増えても,ほかのMAなどで使われる市内局番は省く必要があるのがわかります。例えば,市外局番が042と同じでも,それ以降の5DE-FGHJは立川市で使われているので,小金井市では5DEという市内局番は使えないのです。
■質問■
市外局番が「0」や「1」で終わっているケースでは,この方法は使えないと思うのですが。
■回答■
確かに,0471-DE-FGHJのような場合,区切りをずらすと047-1DE-FGHJとなり,市内局番の先頭が「1」になってしまいます。こうした場合,ご指摘のとおり,市外局番を1ケタ減らして市内局番を1ケタ増やすという方法はとれません。それでは,こういう局番のエリアで電話番号が足りなくなったらどうするのでしょうか。
一つの方法は,市外局番から市内局番に移す数字を変えるという手です。具体例を挙げると,1999年の大阪府寝屋川市での変更があります。寝屋川市はもともと,0720-DE-FGHJという電話番号が使われてきましたが,電話番号の需要が逼迫したため,ケタをずらして使える番号を増やすことにしました。ところが市外局番の最後のケタが「0」だったので単純にずらせません。そこで「0」を「8」と変えてずらす(つまり,072-8DE-FGHJ)ことにしたのです。ただし,数字を変えると,ほかの地域と重複する危険性があるので,こうした方法は今後使われないことになっています。
では,こうしたケースでも,数字を変えずに電話番号を増やせるのでしょうか。実はできます。市外局番から市内局番で,2ケタ分の数字を一気にずらすのです。つまり,0471-DE-FGHJを04-71DE-FGHJとするわけです。実は,ここで挙げたのは実例です。現在,千葉県柏市の市外局番は0471ですが,この2月11日から04になり,市内局番は71から始まる4ケタになります。日本で3番目の1ケタ市外局番が誕生するのです。
総務省によれば,電話事業者から話を聞いて,電話番号が逼迫している地域を把握し,いよいよとなったらケタをずらして対応するそうです。市外局番の最後が「0」や「1」の地域で電話番号が足りなくなったら,当面はこの「2ケタずらし」で対応するという話です。つまり,0A-BCDE-FGHJという1ケタ市外局番を目いっぱい利用するわけです。しばらくはこれで対応できそうですが,これでも電話番号が足りなくなったら,電話番号の11ケタ化などを含めた抜本的な対応が必要になるでしょう。
< 日経NETWORK 1月号では,電話番号の秘められた世界を紹介する記事を掲載しています。ぜひご覧ください >