ADSLやFTTHサービスなど,メガ・ビット/秒クラスの回線につなぐブロードバンド・ルーター。回線が速くなればなるほど,「せっかくの高速回線があるのに,ブロードバンド・ルーターがボトルネックになっていないか」と,その処理性能が気になってくる。ベンダーは,「スループットXXMbps」などという言葉をカタログに記載し,最近のウリの一つにしている。でも,こうしたうたい文句を本当に信用してもよいものだろうか。

 実は,こうした「公称スループット値」は,各社が勝手に測定した値を公開しているに過ぎない。多くベンダーは,簡単な実験用ネットワークを組み,FTPサーバー相手に大容量ファイルをダウンロードし,その時間からスループットを割り出している。特に低価格の製品の多くがこの方法を採用している。しかしこのテスト方法は,実際にユーザーがインターネットへアクセスし,Webサーバーを表示する場合とは条件が大きく違う。

 一般のWebアクセス(HTTP)では,いろんなサイズのパケットをやり取りする。一方,FTP転送の場合はサイズの大きいパケットを多く流す。とくに公称スループットを測定するときは,大容量ファイルをダウンロードするケースが多く,そうなるとFTPのパケット・サイズは,大ざっぱに見てWebアクセス時に比べて約2倍になる。

 この違いがブロードバンド・ルーターのスループットにどう影響するのか。興味深い情報がマイクロ総合研究所のWebサイトで公開されている。同社のブロードバンド・ルーター「NetGenesis OPT」によるスループット測定実験のデータである。このデータによると,パケット・サイズが小さいときはスループットも低いが,大きくなるにつれてスループットが向上している。つまり,Webアクセス時に比べ,その時の2倍のサイズのパケットをやり取りするFTPのほうが,スループットが高くなる。FTPによるスループットの測定テストは,ブロードバンド・ルーターにとって有利なテストなのだ。

 このカラクリがわかれば,公称値を実環境での性能の目安にできる。Webアクセスなら平均パケット・サイズはFTPの約半分になる。前述の実験データから判断すると,実際のスループットはカタログ・スペックの約半分程度であると推測できる。

 もちろん,スループットはパケット・サイズだけで決まるものではない。このほか,フィルタリングの設定やCPUの処理能力によっても大きく変わることに注意する必要がある。

山田 剛良

<日経NETWORK12月号では,ブロードバンド・ルーターの正体を明らかにした特集記事「ブロードバンド・ルーターの正しい理解」を掲載しています。ぜひ,ご覧下さい>

関連リンク
マイクロ総合研究所のNetGenesis OPTのスループット測定実験のページ