「ドメイン名に日本語が使える!」--。昨年のちょうど今時分,こんな話題で盛り上がったことを覚えているだろうか。実際,2000年10月からは「日本語.com」や「日本語.net」などを,2001年5月からは「日本語.jp」のような日本語ドメイン名を取得できるようになっている。ところが,現時点でもWebアクセスのURLに日本語ドメイン名は使えない。結局,あの騒ぎはいったいなんだったのかと疑問に思っている人も多いだろう。しかし,ここにきて状況は変わってきた。今年末にも,日本語ドメイン名を使えるしくみが出来上がりそうなのだ。

 なぜ,今までドメイン名に日本語を使えなかったのか。その理由は,ドメイン名を登録するDNSと呼ぶサーバーと密接な関係がある。簡単におさらいしておこう。

 インターネットでは,コンピュータはIPアドレスで通信する。ただし,IPアドレスは数字列で表現されるので,人間には覚えにくい。そこでIPアドレスの代わりとなる覚えやすいアドレスが考案された。これがドメイン名である。ドメイン名はIPアドレスと対応付けられた形で,DNSサーバーに登録されている。

 DNSを使った通信は次のようになる。ユーザーがドメイン名を指定して通信すると,コンピュータは通信に先立って,ドメイン名からIPアドレスを見つける。これは名前解決と呼ばれ,具体的にはDNSサーバーにドメイン名を問い合わせることで実行する。DNSサーバーは自分が持っている対応表からドメイン名に対応付けられたIPアドレスを探し出し,これを返信する。これで,あて先コンピュータのIPアドレスがわかる。このあと,そのIPアドレスあてにIPパケットを送り出す。

 ドメイン名に日本語が使えなかったのは,DNSに登録できる文字が半角の英数文字を中心とする7ビットのASCIIコードと決められていたから。このため,日本語だけでなく,ほかの文字コードで構成される言語についても,ドメイン名として使うことができなかった。

 では,DNSで日本語などの多言語を扱えるようにするにはどうすればいいのだろう。シナリオは二つある。一つは,DNSの仕様を変えてしまうこと。もう一つは,DNSの仕様はそのままに,多言語ドメイン名を変換してからDNSに登録するというやり方だ。ただ,前者のDNSの仕様を変える方法は,インターネット・インフラそのものの大工事となるので現実的でない。そこで現在は,後者の多言語ドメイン名を変換するという方法で検討が進められている。

 現在,多言語ドメイン名をASCII文字に変換する統一ルールを作成中。これが決まったら,変換ルールに基づいて多言語ドメイン名をASCII文字に変換するしくみをアプリケーションに作りこむことになる。DNSサーバーには,多言語ドメイン名を変換したあとのASCII文字列を登録しておく。アプリケーションは変換したあとのASCII文字列をDNSサーバーに問い合わせるので,DNSのしくみは何も変えなくていい。

 この変換ルールはいつまとまるのだろうか? 汎用jpドメイン名を管理する日本レジストリサービスの森下泰宏氏によると,「仕様はほぼ固まっている。2001年末ころにはIETF(Internet Engineering Task Force)の会合で承認される見込み」である。承認されれば,標準仕様としてインターネットで使えるようになる。変換後のASCII文字列をDNSサーバーに登録する作業は難しくないので,これは時間が解決するだろう。あとは,Webブラウザや電子メール・ソフトなどのアプリケーションが対応するのを待つことになる。時間はかかっているが,日本語ドメイン名をあきらめるのはまだ早い。

斉藤 栄太郎

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関連リンク
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多言語ドメイン名に関する技術解説