JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)が日本語ドメイン名の導入を発表したのを機に,導入効果の予測や割り当てルールに対する不満など,日本語ドメイン名についてさまざまな意見が飛び交っている。ただ,日本語ドメイン名を実際に利用するための課題についてはあまり指摘されていない。今ある環境のままでは,日本語ドメイン名でWebサーバーにアクセスできないという問題である。

 10月18日,JPNICは日本語ドメイン名を使うための評価キット1.0を正式リリースした。この評価キットには日本語ドメイン名を一定のルールに基づいてASCII文字に変換するソフト・ツールが含まれている。このソフト・ツールは,ドメイン名からIPアドレスを見つけだす「リゾルバ」と呼ぶソフト(OSが持っている)と連係して動く。パソコンに組み込めば,日本語ドメイン名を持つWebサイトにアクセスできるようになる。だが,このソフト・ツールを組み込んだとしてもまだ十分とはいえない。Webデータを取り出せないケースが頻発する可能性があるからだ。

 実はドメイン名は,IPアドレスを取得する場面でのみ使われるわけではない。アプリケーションはさまざまな場面でドメイン名を使っている。例えばWebブラウザは,Webサーバーに送り出す要求データの中にもドメイン名を書き込んでいる。この要求データはリゾルバを経由せずに送出されるので,日本語ドメイン名は日本語のままWebサーバーに届いてしまう。このため,Webサーバーの設定によっては,日本語ドメイン名を正しく認識できず,応答できないケースが出てくる。

 代表例としては,1台のWebサーバーで複数のドメイン名のWebサイトを運営するために使われる「バーチャル・ドメイン・サービス」がある。このしくみを使っていると,Webサーバーは要求データに書き込まれているドメイン名を基にアクセス先を振り分ける。だが,ドメイン名が日本語で書かれていると振り分けられないので,Webブラウザへは応答できない。バーチャル・ドメイン・サービスは多くの企業やホスティング・サービスを提供する事業者で運用されており,珍しいものではない。

 根本的な解決策はないのだろうか。多くのインターネット関連ソフトは「ドメイン名はASCII文字で書かれてある」という前提で設計されている。これらのソフトをそのまま使えるようにするには,どこかで日本語ドメイン名をASCII文字に変換するしくみが必要だ。

 日本語を含む多言語ドメイン名の技術開発は,IETF(Internet Engineering Task Force )が中心となって進めている。JPNICの日本語ドメイン名も,IETFでの開発動向を折り込んだものとなっている。IETFは,多言語ドメイン名をASCII文字列に変換するルールを検討中であり,JPNICのソフト・ツールもその有力案に沿ったものだ。ただ,その変換機能をどのようにシステムに組み込むかはまだはっきりしていない。

 JPNICで日本語ドメイン名システムの開発を担当する米谷嘉朗氏は,クライアント側のアプリケーションで対応するべきと考えている。「ドメイン名の使い方はアプリケーションによって違う。クライアント側アプリケーションを開発するベンダーは,インターネットへデータを流す際に“ドメイン名が多言語であればそれをASCII文字に変換する”というしくみをアプリケーションに組み込んで欲しい」(米谷氏)。クライアント側でASCII文字に変換してあれば,サーバー側はほとんど変更作業が発生しないというメリットがあるという。

 IETFで多言語ドメイン名の技術標準が固まるのは,早くても来年の6月。JPNICは,その最終仕様を待って日本語ドメイン名の本格運用を開始する意向である。さて,運用開始までの時間はあまり長くない。アプリケーションをどう日本語ドメイン対応にしていくのか,ベンダーの取り組みが気になるところだ。

喜田 泰代=日経NETWORK)

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