・ISDNは音声などのアナログ・データもディジタルに変換して送受信し,
 さまざまなメディアを同一のインタフェースで扱う回線である。
・1本の電話回線上に,音声やデータ通信に使うBチャネル2本と,
 制御用のDチャネル1本がある。
・電話回線上に,これ以上のチャネルを増やしていくことができず,
 速度的に限界がある。

 「電話をしながらインターネットも同時にできる」――。これがISDN。英語の総合ディジタル通信網の頭文字をとった略語だ。NTT地域会社(NTT東日本と西日本)などが提供する通信サービスの一種で,その名の通り,信号をアナログではなくディジタル方式で扱う。

 音声などのアナログ・データもいったんディジタル・データに変換してからやりとりする。そして,ディジタル・データとの区別なく,同じように扱われる。つまり,さまざまな形式のデータが同一インタフェースで扱えるのだ。名称に“総合”という用語が付いているのは,こうした特徴を表しているためである。

合計3本の論理チャネルを用意

 ディジタル方式というとなにか特別なイメージを持つかもしれないが,電話局とユーザー宅の間を結ぶ電話線は加入電話で使っているものをそのまま流用する。電話線は同じでも,そこを流れる信号のタイプが違うのである。

図 三つの理論的なチャネルを備えるISDN
ISDNには,Bチャネルと呼ぶ通信用のチャネルが2本,Dチャネルと呼ぶ制御用のチャネルが1本備わっている。Dチャネルを用いて電話をかけ,電話がつながるとBチャネルで音声やデータを送るしくみである。
 ディジタルの特徴を生かして,1本の電話線の上に3本の論理的な回線を設定してある点は加入電話にはない特徴。Bチャネルと呼ぶ64kビット/秒の回線が2本(B1とB2),Dチャネルと呼ぶ16kビット/秒の回線が1本――の合計3本の論理回線が提供される([拡大表示])。Bチャネルは音声やデータを送る通信用,Dチャネルは電話をかけたり受けたりする制御用に使う。冒頭で紹介した「電話もインターネットも」という売り文句は,Bチャネルが2本あり,両方を同時に使えるということを表している。

3チャネルのデータを混在させる

 では,実際にISDN回線上をデータがどのように流れるかを見てみよう。ISDN回線上では,48ビット長のフレームが250マイクロ秒ごとに上下方向べつべつに送受信される。このフレーム中にはB1チャネル用のデータが16ビット,B2用が16ビット,Dチャネル用データが4ビット含まれる。したがって,各チャネルの伝送速度は,
B1=B2=16×1/0.00025=64k
D=4×1/0.00025=16k
となる。つまり,全体で144kビット/秒の通信が可能な伝送路に,仮想的に3チャネルを作り出しているのだ。

Dチャネルで制御,Bチャネルで通信

 BチャネルやDチャネルを使って,どのように通信するか見てみよう。

 まず電話機の受話器を上げて電話番号を押すと,Dチャネルを通じて通信相手へ着信要求が送られる。この着信要求信号には,どんなタイプの通信を要求しているのかを示す識別子も入っている。例えば,音声による電話なのか,ディジタル・データ通信なのか,といった情報である。したがって,着信側はこの情報により,適切な端末(電話機やパソコン)を呼び出せる。

 次に相手が電話に出ると,使っていないBチャネルのうちの1本が通信路として確保される。あとは確保したBチャネルを占有して,音声やデータを互いに送受信し続ける。

 そして,会話やデータの送受信が終わってどちらかが電話を切ると,再びDチャネルで相手に電話を切ったことを表す切断信号を送り,最後にBチャネルが解放されて,通信が終わる。

 逆に相手から電話がかかってくる場合はどうか。この場合は,最初の手順で,Dチャネルを通じて着信要求信号が送られてくる。また1本のBチャネルを使っているときに,別の電話をかけたりかかってきた場合は,Dチャネルで制御信号をやりとりして,使っていない残りのBチャネルを確保する。

ネット接続には高速化は限界

 ISDNサービスが始まってすでに10数年が経過した。サービス開始当初は,先進性とともに高速性が魅力的だった。その後,インターネット接続用の回線として注目されることになった。

 しかし,広い帯域(ブロードバンド)でもって高速伝送が可能なADSLやCATVと比べると,ISDNの「帯域幅」は狭い。電話回線上では,Bチャネルを2本束ねた128kビット/秒の速度がほぼ限界で,この先の高速化は見込めない。結局,ISDNは“ナローバンド”をカバーする回線である。

高田 学也