10BASE-T,無線LAN,HomePNA(電話線を使った家庭内ネットワーク技術)--。家庭や小規模オフィスでLANを作るための技術はいくつかある。これら候補の一つにIEEE1394があるといったら意外に感じるだろうか。確かに現時点のIEEE1394は,主にパソコンと家電をつなぐ用途で用いられている。だが,この認識は改める必要がありそうだ。IEEE1394は10BASE-Tに取って代わるLAN技術になる可能性を秘めている。

 IEEE1394を使ったLANはイーサネットと比べてどこが優れているのだろうか。まず,速度が圧倒的に速い。最大データ伝送速度は400Mビット/秒。これはファスト・イーサネットの実に4倍だ。次に,多重伝送できること。最大400Mビット/秒の帯域を分割し,画像データの取り込みとTCP/IP通信を同時に独立して行える。もう一つ,すでに多くのパソコンがIEEE1394を装備しているという手軽さも,メリットといえるだろう。

 IEEE1394をLANとして使う手法は,インターネット技術の開発組織「IETF」(Internet Engineering Task Force )が開発した「IP over IEEE1394」である。この技術はインターネット標準の一つに位置づけられており,1999年12月にRFC2734という文書で公開された。すでにIP over 1394を実装する製品もある。例えばNECのパソコン「simplem」。1999年10月にIP over 1394のドライバ・ソフトを装備した。このほかにもNEC製パソコンやソニー製パソコンの中にはIP over 1394を利用できるものがある。

 IP over 1394を装備するパソコン同士なら,IEEE1394ポートを結びつけるとTCP/IPで通信できるようになる。使い勝手はイーサネットとまったく同じ。NEC製パソコンの場合は,Windows98のコントロール・パネルで「NEC IPv4 over IEEE1394 Virtual Driver」というドライバを組み込めばよい。将来的には,多くのパソコンがIP over 1394機能を持つことになりそう。というのは,マイクロソフトの新OS「Windows Me」(今秋出荷予定)がIP over 1394ドライバを標準搭載する見込みであるためだ。

 IP over 1394は,IEEE1394のパケットにIPパケットを入れて運ぶ。ここで問題になるのが,IPアドレスとIEEE1394アドレスの対応づけ。いわゆるアドレス解決である。IP over イーサネットにはARPというメカニズムがあり,これを使ってIPアドレスからMACアドレス(LANアドレス)を見つけていた。

 アドレス解決の原理はIP over 1394も同じ。IPアドレスからIEEE1394のハードウエア・アドレスを見つける「1394ARP」というメカニズムを使う。IEEE1394機器も世界中でただ一つしかない「node unique ID」を割り当てられているので,これをLANアドレスとして使うのである。

 もちろん課題はある。第一に伝送距離が短い。10BASE-Tなら100メートルは引き回せるが,IEEE1394の最大ケーブル長はわずかに4.5メートルだ。もっと重要なことは,LANを構成するための機器が揃っていないこと。IEEE1394向けのリピータ・ハブはあるが,ルーターがないのである。このため,パソコン同士は接続できるが,IEEE1394で作ったLANからインターネットにアクセスする環境は簡単に作れない。

 それでもこれらの課題は次第に解決されそうだ。例えばNECはIEEE1394対応のLANスイッチやルーターの試作を終えており,2000年中には製品化する見込み。またマイクロソフトはWindows Meにインターネットのシェア機能を持たせ,IEEE1394で接続している別のパソコンがそのWindows Me搭載パソコンを経由してインターネットにアクセスできるようにする意向だ。

 ケーブル長の問題も2001年になれば解決しそう。1394を強化した新規格「P1394.b」の出荷が始まるからだ。P1394.bでは,速度を100Mビット/秒に抑えればケーブル長は最大100メートルにまで延長できる。4.5メートルのままなら,最大速度は1.6Gビット/秒にまで高速化される。

 こうしてみると,少なくとも家庭ではIP over IEEE1394が本格普及する可能性はかなり高そうだ。

高橋 健太郎=日経NETWORK)
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