キャッシュを生かして性能向上

 14時,ソフト対策チームは,アプリケーションのチューニングで,性能を向上できないか検討を始めた。

 カブドットコム証券のWebシステムは,データベースにアクセスする際に必要なデータベース名やデータベース・サーバーの種類などの情報を,LDAP(簡易ディレクトリ・アクセス・プロトコル)サーバーで一元管理している。多くのサーバーがあるため,変更などに備えて情報を一元化しているのである。しかしデータベースにアクセスする度にLDAPから情報を取得するため,アプリケーション・サーバーの負荷になっていた。

 そこで,取得したデータはなるべくキャッシュするようにチューニングした。LDAPから取得した情報は,レジストリにキャッシュさせた。一元管理はできなくなるが,当面はデータベースの変更がないため,運用の負荷にはならないと判断した。

 このチューニング作業の後,テストを実施。処理性能を10~20%高めることに成功した。

希望のサーバー機をなんとか調達

 一方,同じ14時に,ハードウエア対策チームは,増設用サーバー機の調達に着手。取引があるベンダーを中心に,在庫がないかを問い合わせた。

 Webサーバーとアプリケーション・サーバー各1台ずつ,計2台を増設したい。だが,どんなマシンでもよいわけではない。カブドットコムは,主にIA(インテル・アーキテクチャ)サーバー機上で,Windowsを稼働させている。そのうち取引注文を受け付けるWebサーバーとアプリケーション・サーバーには,8CPUを搭載してある。

 Webサーバーやアプリケーション・サーバーの性能には,CPUの2次キャッシュが効果を発揮する。このため,「2次キャッシュが1Mバイトの4CPU機と,4Mバイトある8CPU機では,断然性能が違う」(斎藤氏)。増設するサーバーも,8CPUを想定した。2次キャッシュの容量を考慮すると,4CPU機なら,4台以上調達しないと十分な性能を確保できないからだ。

 そうしたサーバー機の在庫を持つベンダーは,なかなかない。通常なら,少なくとも1週間程度はかかるところだ。幸い,日本ヒューレット・パッカードが,ラボで使用しているマシンを貸し出してくれることになった。

“合わせ技”で目標性能を確保

 調達したマシンがカブドットコム証券に到着したころには,19時を回っていた。いよいよアプリ・サーバーの構築作業である。まずWindows 2000 ServerとApplication Centerを導入。LANカードをOSがうまく認識できず,やや手間取ったものの,おおむね順調に作業は進んだ。日ごろから,サーバーのリプレース作業を数多くこなしていたのが奏功した。

 結合テストには時間をかけた。「すでにピークは過ぎており,翌朝のピークに間に合えばよかった」(阿部氏)からである。

 これで,3台あったアプリケーション・サーバーが4台になった。つまり1.3倍の性能向上が見込める。ソフト対策チームによるチューニング作業により,単体性能は1.2倍になったため,一連の作業で1.5倍強の処理性能を得た。当初から通常時の2倍の処理性能を備えていたので,3倍以上の性能を確保できた計算になる。なんとか翌朝の取引に対応できるめどが立った。作業が終わったのは,翌朝5時だった。

グリッド技術の活用にも挑戦

 7月4日のアクセスは,3日ほどではなかった。増強後のシステムで,CPU負荷は50%程度である。しかし念のため,土曜日の5日には,データベース・サーバーのCPUとメモリーを増設。翌週の8日にもアクセスが急増したものの,問題はなかった。

 7月3日と同程度なら現行システムでさばける。しかし「その2倍となるとまだ自信がない」(斎藤氏)というのが本音。過剰な設備投資にならないよう,アクセス傾向を見極めて,今後もシステム増強に取り組む。グリッド技術を使って,空いているサーバーに処理を振り分ける仕組みも検討しており,下期には実現する意向である。