電子情報技術産業協会(JEITA)は2001年12月,電子部品メーカーとセット・メーカー間のBtoB(企業間)ECシステムを,Webサービス標準の「ebXML」を使って実装した。JEITAが規格化した「JEITAコラボレイティブEDI標準」の実証実験のためである。ebXMLメッセージの交換機能をASPサービスとして実現し,パソコンから手軽に利用できるようにした。ASPサービスとのSOAP通信で,プロキシ・サーバー経由で接続できないという問題に苦労した。

(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)

図1●JEITAコラボレイティブEDI標準の実証実験システム
「JEITAコラボレイティブEDI標準」に準拠したebXMLメッセージを交換するための機能をASPサービスとして利用できるようにした。発注者と受注者が,ASPサービスを介して注文書などをやり取りするだけで,ebXMLベースのSCM(サプライ・チェーン管理)システムを実現できる。メッセージのやり取りにSOAPを使う。やり取りするデータ形式はXMLとCSVのどちらでもよい。メッセージ送受信の状況はWebブラウザで確認できる。

 電機電子部品業界のEDIの高度化を推進する電子情報技術産業協会(JEITA)のEDIセンターは2001年12月~2002年1月,「JEITAコラボレイティブEDI標準」の実証実験を実施した。この標準は,電子部品メーカーとセット・メーカーの間のビジネス・プロセスを,Webサービス標準の「ebXML」(電子ビジネスXML)を使って標準化したもの。メーカー間のSCM(サプライ・チェーン管理)を高度化させる狙いがある。

 実証実験では,世界でもまだ実装例が少ないebXML対応のBtoB(企業間)ECシステムを実際に構築した。ebXMLの規格ではあいまいな部分を明確に定義し,受発注に関連するビジネス文書を実際にやり取りした。実験には,セット・メーカー(発注者)としてソニーや日立製作所,富士通など7社,部品メーカー(受注者)としてアルプス電気,TDK,村田製作所など6社が参加した。

 実証実験システムの特徴は,企業間でebXMLメッセージを交換するBtoBサーバー機能をASPサービスとして実現し,各企業が比較的手軽にSCMシステムを構築できるようにしたこと(図1[拡大表示])。専用のクライアント・ソフトを開発し,パソコンからASPサービスを利用できるようにした。

ASPで手軽に導入可能に

 受発注などの基幹業務を請け負うBtoBサーバーは,安定した稼働が要求される。信頼性を確保するにはそれなりの初期投資がかかり,運用管理にも手間がかかる。そこでJEITAは,BtoBサーバーをASPサービスとして実装し,BtoBサーバーの運用管理をアウトソースできるようにした。「特に中小企業に利用してもらうには,ASPサービスの提供が不可欠」(JEITA EDIセンター事務局長の鈴木 正昭氏)。ASPサービス・システムは,日立製作所と富士通の2社がそれぞれ構築した。

 注文書などのビジネス文書は,専用のクライアント・ソフトを使って,ASPサービスとSOAPでやり取りする。1日数万件といった大量の受発注などをこなせるシステムを目指しているからである。Webブラウザを使うという選択肢もあったが,それでは処理の効率に限界がある。将来的に,各社の社内システムと連携することを考え,専用のクライアント・ソフトを開発した。

 ASPサービスに送信するビジネス文書のデータ形式にはXMLを採用した。タグ名でデータの意味を記述する。XMLを使うと,実証実験の結果などからデータ形式を変更する際に柔軟に対応でき,さらに人がデータの内容を理解しやすいという利点がある。ただしXML技術に不慣れな企業でも容易に利用できるように,CSV(カンマ区切りデータ)形式でも受け付けるようにした。CSVでは,タグが使えないため,データをあらかじめ決めた順序で並べることで,データの意味を伝える。

 ASPサービスへの接続には,SSL(セキュア・ソケット・レイヤー)を使う。実証実験とはいえ,実際の業務データの写しをやり取りするため,第三者にデータが漏れないようにセキュリティ対策が必要だった。

 ASPサービスには,発注者向けのBtoBサーバーと,受注者向けのBtoBサーバーを設置した。発注者が受注者に注文書を送信する流れは次のようになる。発注者がSOAPで注文書を送信すると,発注者向けのBtoBサーバーは,それをJEITAコラボレイティブEDI標準に準拠したebXMLメッセージに変換し,受注者向けのBtoBサーバーに送信する。受注者向けのBtoBサーバーは,受信したメッセージから注文書を取り出して受注者にSOAPで送信する。

2種類の受発注プロセスを実装

 JEITAは,ebXMLの規格に沿ったかたちで,一般部品の受発注と特注部品の受発注という2種類のビジネス・プロセスを実装した。ebXMLでは,「BPSS」(ビジネス・プロセス仕様スキーマ)と呼ぶ規格を従って,ビジネス・プロセスを分割して“ebXMLメッセージのやり取り”に落とし込んでいく。まず,ビジネス・プロセスをまとまった業務処理単位で「コラボレーション」と呼ぶサブ・プロセスに分割する。このコラボレーションを,それ以上分割できない業務処理である「トランザクション」に分け,このトランザクションをebXMLメッセージのやり取りとして実装する。

 JEITAのシステムでは,一般部品の受発注というビジネス・プロセスを3つのコラボレーションに分割した。発注者が注文する製品の仕様と納期を示し,供給可能かどうかの回答を得る「所要提示/供給回答」,実際に発注する「確定注文」,そして「納期微調整」の3つである。

 特注部品の受発注の場合は,この3つに「予約注文」というコラボレーションを追加した。予約注文は,一定期間中の発注計画を指示するもので,確定注文の前に実行する。受注者はこれにあわせて特注部品を生産できるように設備を確保する。

 所要提示/供給回答,予約注文,確定注文,納期微調整という4つのコラボレーションのそれぞれを,さらに2つのトランザクションに分割した。所要提示/供給回答は,「所要提示」と「供給回答」,予約注文は,「予約注文送信」と「予約注文請け」といった具合である。「所要提示」や「供給回答」といった各トランザクションを,ebXMLメッセージのやり取りとして実装した。所要提示であれば,発注側のBtoBサーバーは提示内容をebXMLメッセージに埋め込んで受注側に送信する。受注側のBtoBサーバーは,メッセージを受け取ったあと確認メッセージを返信するという流れである。

ebXMLのあいまいな部分を規定

 ebXMLメッセージをやり取りするソフトウエアであるebXML MSH(メッセージ・サービス・ハンドラ)の実装にあたり,ebXML規格のあいまいな部分を明確にする必要があった。

 まずebXMLメッセージのヘッダーで,相手先を明確に指定できるようにした。ebXMLの仕様では,欧米などで広く利用されている企業コードであるDUNS番号や,メール・アドレスなどが例として挙がっているだけである。JEITAは日本で実績のある企業コードである「CII(産業情報化推進センター)コード」を利用することにした。

 ebXMLメッセージはSOAPを使ってやり取りするが,SOAPのベースになる通信プロトコルなどは実装依存になっている。JEITAは,通信プロトコルにHTTPを選択。HTTPの相手認証については,ASPサービスのセンター内だけで通信するため不要と判断した。ebXMLメッセージには,メッセージが相手に届くことが保証されないベスト・エフォート型と,相手に確実にメッセージが届く高信頼性型があるが,高信頼性型を利用することにした。