三和銀行は2001年5月,ユーザーの使い勝手の向上を目指して,Webサイトを全面的にリニューアルした。ポイントは,約30人のエンドユーザーに既存のWebサイトをテストしてもらい,問題点を洗い出したこと。これらの問題点をもとにWebサイトを改善したら,アクセス数が1.5倍になった。使い勝手の向上が,リピータの増加を招いたのである。Webサイトからの新規口座の申し込みや資料請求などの数も増えた。

(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)

 三和銀行は2001年5月25日,Webサイトを全面的にリニューアルした。最大の狙いは,「ユーザーの使い勝手を改善すること」(三和銀行 ダイレクトバンキング部次長の吉本 泰雄氏)だった(図1[拡大表示])。

図1●三和銀行は使いやすさの改善を狙ってWebサイトをリニューアル
従来のWebサイト(左側)では,ユーザーが目的のページにアクセスするのに,トップ・ページのどのリンクをクリックすればよいのか分かりにくかった。リニューアルしたトップ・ページ(右側)では,ユーザーの目的にあわせたメニューを用意し,ユーザーに分かりやすい言葉を使うなど,使い勝手を改善した。

 ユーザーの使い勝手,つまりユーザビリティを改善するため,三和銀行が最も重視したのは,ユーザー・テストだった。実際のエンドユーザーにWebサイトをテストしてもらい,ユーザビリティの問題を洗い出す手法である。三和銀行では,約30人のテスト・ユーザーに既存のWebサイトをチェックしてもらった。

 ユーザビリティを改善したWebサイトを公開すると,その効果はすぐに現れた。まずトップ・ページのアクセス数が「1.5倍に跳ね上がった」(吉本氏)。サイトのリニューアルに際して,広告を出したわけでもなく,コンテンツを増やしたわけでもない。ユーザビリティを改善しただけで,これだけのアクセスが増えたのだ。三和銀行自身も「これには本当に驚いた」(吉本氏)。アクセス数の増加は,「繰り返しサイトを訪れるリピータが増えたから」(吉本氏)とみている。

 新規口座の申し込みや資料の請求なども増えた。1割増しというものから,2倍になったというものもあった。

「使い勝手をなんとかしてくれ」

 2000年夏に今回のリニューアルを検討し始めたころ,社内から聞こえていたのは「とにかく使いにくい。なんとかしてくれ」というものだった。それまでのWebサイトは,情報の整理が不十分だったり,データ・サイズが大きすぎたりなど,使いにくいページがあることは認識していた。コンテンツが膨らんでいくなかで,サイト全体の統一感が欠けてきていることも問題だった。

 実際のところ,それまでは,ユーザビリティの向上を重視する意識があまりなかった。「Webサイトは社外への広報が主目的であり,コンテンツを増やすことが1番の課題と考えていた」(吉本氏)。その意識が,今回のリニューアル時点では変わっていた。Webサイトが,顧客と実際に取引を成立させるツールとして認識されるようになったのである。「これが,コストをかけてでもユーザビリティを改善しようという判断につながった」(吉本氏)。

 ユーザビリティの改善を図るにあたり,当時増えつつあったSIPS(戦略的インターネット・プロフェッショナル・サービス)のサービスを利用する方向で検討を始めた。「社内のリソースだけでは限界という認識があった」(吉本氏)からである。SIPSは,Webサイトのビジネス戦略の立案から,実際の構築までを一括して請け負うベンダー。サイトの成功に不可欠なユーザビリティの向上にノウハウを持つところが多い。三和銀行は,5~6社のSIPSから提案してもらうなどのやりとりで,アドバイスが的確で対応が迅速とみたネットイヤーグループを選択した。

ユーザー・テストで問題点を抽出

 ネットイヤーグループとの相談の結果,まずは既存のサイトに対して,前述のユーザー・テストを実施することにした。既存サイトの問題点を把握して,改善の方向を導き出すためである。

 三和銀行の吉本氏はWebサイトのユーザー・テストを是非やってみたいと考えていた。金融商品の開発を担当していたとき,「グループ・インタビュー」を実施しており,“実際のユーザーの声”の効果をよく知っていたからである。グループ・インタビューは,実際のユーザー数名を集め,新商品について自由に意見を言ってもらうもの。商品の設計者には,思いもよらないような意見を聞けることが多かった。Webサイトについても,ユーザーにしか分からないことがあるだろうと想像していた。

 ユーザー・テストでは通常,テストが終わったあと,アクセスに戸惑った理由などを個別に聞く。しかし三和銀行の場合は,グループ・インタビューに近い形式を採った。共通のテストを実施したユーザーを集め,サイトのユーザビリティについて討論してもらうのである。個別に意見を聞くよりも,より率直な意見が出てくることを期待した。

 Webサイトのテストは,具体的なアクセスの目的(タスク)を与えて実施した。「住宅ローンを申し込む」,「新規口座を開設する」といったものである。こうしたタスクを与えることによって,サイトの個々の機能について,ユーザビリティの問題点をチェックできる。タスクはネットイヤーグループと共同で慎重に設計し,サイトの機能をできるだけ網羅するようにした。

 1つのタスクを4人にテストしてもらい,この4人でグループ・インタビューを実施した。テスト・ユーザーの数は合計約30人に上った。「ここでユーザーが実際に迷っているのを見て,ユーザビリティ改善の必要性を再認識した」(吉本氏)。

商品名ではなく普通の言葉で説明

 新しいサイトの設計では,ユーザー・テストで判明した問題点の解決を最優先して考えた。

 まず新サイトでは,なるべく普通の言葉でリンクを説明するようにした。従来のサイトで多くのユーザーが戸惑ったのは,商品名を使ったリンクのところであった。「金融商品の名前は認知度が低い」(吉本氏)ため,商品名だけではユーザーに内容が伝わらなかった。例えばトップ・ページでは,「Web契約サービス」と「Web受付サービス」というサービス名を記載した2つのアイコンがあった(図1)。

 それぞれ「アクティブチョイス カードローン」,「住所変更・自動支払(公共料金)」と説明が添えてあるが,文字が小さい。例えば,住所を変更したくてアクセスしてきたユーザーは,Webサイトでまず「住所変更」,またはそれに類する言葉を探すはず。「Web受付サービス」ではユーザーは気づいてくれない。

 それに,「Web契約サービス」に添えてある「アクティブチョイス カードローン」という言葉では,「キャッシュ・カードで担保なしに借りられるローン」であることまでは,まず伝わらない。

 三和銀行としては,2つのサービスを新しく始めたときに,そのサービス名を目立たせたいという意識からアイコンを作ったわけだが,それがユーザーには使いにくいものになっていた。

 そこで新しいトップ・ページでは,「インターネット・バンキング」,「口座を開く」,「お金をためる」というように,普通の言葉で説明したメニューを作った(図1)。目的を持ってアクセスしてきたユーザーが,好みのメニューをすぐに見つけられるようにした。こうした工夫をサイト全体で徹底した。