大型で大容量のネット広告が急増している。ブロードバンド利用者が1000万を超え,データ容量の大きい広告でも配信しやすくなったからだ。表現力が向上し,高い告知効果を期待できるため,今後はバナー広告の主流になりそう。とはいえ,ナローバンドの利用者も,まだまだ無視はできない。そこで,アクセス回線速度に応じた広告を配信する手法が生まれている。

(小川 弘晃=hrogawa@nikkeibp.co.jp)

 「今年に入ってから通常より大型のバナー広告の利用が急速に増えている。今ではバナー広告の約90%を占める」(楽天でインフォシークの運営を担当しているポータル事業カンパニー 広報宣伝部 下田優子氏)。「2003年4-6月期の広告収入は44億円と,四半期としては過去最高を記録した。大型広告の急伸が貢献している」(ヤフー 広告本部長 武藤 芳彦氏)。

写真1●スーパーバナーの利用が増えている
通常のバナーの約2.3倍のスペースを持つ「スーパーバナー」を,大手ポータル・サイトが相次いで採用している。画面はインフォシークの例。インフォシークでは「ビッグバナー」と呼んでいる。
表1●上場ネット広告大手5社の4-6月期売上高は前年同期比で3割以上も増えた
写真2●トップページのバナー広告も大型化
画面はNTT-Xのポータル・サイト「goo」の例。従来より3倍近く大きいスペースを持つ広告に切り替えた。さらに,広告の上にポインタを置くと約2倍の大きさに広がる広告商品「エキスパンド」も導入した。

潤うポータルと広告代理店

 大型のバナー広告は昨年後半から登場し始めた。何種類かあるが,主流となっているのが「スーパーバナー」と呼ばれるタイプ(インフォシークでは「ビッグバナー」と呼ぶ)。通常のバナーの約2.3倍の面積を持つ(写真1[拡大表示])。

 大型化の流れは,ネット広告市場の活性化につながっている。ネット広告代理店の業績がそれを証明している(表1[拡大表示])。7月から8月にかけて,上場しているネット広告の企画・販売大手5社が業績概況を発表。そろって売上高が30%以上の大幅増収となった。

 大型広告の魅力は,従来のバナー以上に高い広告効果を見込めること。スペースが大きい分,より多くの情報を伝えることができ,訴求力の高い表現が可能である。特にFlashを使えば,「テレビCMや雑誌広告により近い効果を期待できる」という声もある。こうした利点が企業に支持され,「自動車や飲料,食品メーカーなど,今までネット広告を利用していなかった企業までもが出稿するようになった」(ヤフー 武藤氏)。

面積は2~7倍,容量40Kバイト

 広告の大型化はスーパーバナーだけではない。NTT-Xが4月に販売を始めた「エキスパンド」と呼ぶ広告商品は,バナーの上にポインタを置くと,その広告が拡大される。最大で従来の約7倍の面積の広告を表示する(写真2[拡大表示])。

 同じ4月にはヤフーが「ダブルサイズ」と呼ぶ広告商品を導入した。従来トップページで採用していたバナー広告より正方形に近く,約3倍の面積を持つ。

 従来のバナーのデータ容量は最大十数Kバイトだが,スーパーバナーは20Kから30Kバイト,エキスパンドなら40Kバイトにもなる。これまでは容量の問題から,こうした大型広告の採用は控えられていた。

 だが,ブロードバンドの普及が状況を変えた。「ブロードバンド・ユーザーの増加に伴い,大型広告を“重い”と感じるユーザーは少なくなってきた。それが,広告の大型化に拍車をかけた」(NTT-X goo編成本部 営業部長の榊原 明氏)。特に,重いのはタブーとされてきたポータル・サイトのトップ・ページでも広告の大型化は進んでいる。

ナローバンド利用者に配慮。ヤフーは画像を送り速度計測

 ただ現状では,大容量化したといっても最大で50Kバイト程度。ポータル運営会社やネット広告代理店には,まだ不十分との声も多い。しかし,ダイヤルアップやPHSなどナローバンドのユーザー数はまだまだ多い。むやみに広告の大容量化は進められない。

図1●ヤフーはユーザーの接続帯域幅に応じて配信する広告を切り替える仕組みを導入
ヤフーはデータ容量が従来の14倍となる最大210Kバイトの広告商品「Yahoo!ビルボードビジュアル」を開始。帯域幅を自動判別し,ブロードバンド・ユーザーだけに配信する仕組みを導入した。フォルクスワーゲン グループ ジャパン が最初のクライアントとなった。新車「トゥアレグ」が走る映像が流れる。

 こうした中,ヤフーは9月に発表した広告商品「Yahoo!ビルボードビジュアル」で,最大210Kバイトとスーパーバナーの約10倍もの超大容量バナーを配信し始めた。ユーザーのアクセス回線がブロードバンドかナローバンドかを識別し,広告の容量を切り替える仕組みを開発することで実現した。

 広告を配信する前に,視認できないダミーのGIF画像を配信し,転送時間からアクセス回線速度を計測(図1[拡大表示])。ブロードバンド・ユーザーには大容量の広告を,ナローバンド・ユーザーには容量の小さい広告を配信する。

 これでナローバンドのユーザーに気兼ねすることなく,大容量の広告を配信できる。「大型で大容量の“ブロードバンド広告”を広めるには,こうした仕組みが欠かせない。大型広告のさらなる表現力向上,そして普及につながるはずだ」(ヤフー 武藤氏)と自信を見せる。

バリュークリックはIPアドレスで回線種別を判別

 ネット広告配信技術の開発を手がけるバリュークリックジャパンも,ユーザーのアクセス回線がブロードバンドかナローバンドかを判別する仕組みを開発。9月に発表した広告配信サービス「回線種別ターゲティング配信」に採用した。同社が提携している約1万のサイトにアクセスしてきたユーザーの回線の種類を判別。ブロードバンド・ユーザー向けの広告とナローバンド・ユーザー向けの広告を配信し分けることができるサービスだ。

 ヤフーのサービスに似ているが,回線容量の判別手法は異なる。ユーザーのIPアドレスを基に,ブロードバンドかナローバンドかを判別する。

 IPアドレスと回線種別を対応付けたデータベースは,ベンチャーのサイバーエリアリサーチが保有しているものを使う。同社はIPアドレスと回線種別,地域区分を対応させるデータベースを独自に構築しているほか,ISPの事業規模やインターネットの地域展開などを調査する企業。IPアドレスに基づいた地域限定の広告配信も手がけている。バリュークリックジャパンは,毎月サイバーエリアリサーチからデータベースの提供を受ける。

 サイバーエリアリサーチがIPアドレスの利用状況を解析する手法の詳細は非公開。DNS(ドメイン名システム)を逆引きし,得られるサブドメイン名から回線の種別や地域などを推測しているようだ。同社のデータベースでは,単に「高速か低速か」といった状況のほか,同じブロードバンドでもxDSL,CATV,光ファイバのいずれなのかまで区別できるという。