従来のログ解析ツールでは難しかった解析機能を備えるASPサービスが登場している。特徴は,ある検索キーワードを使ってアクセスしてきたユーザーのうち,サイトの実利を伴うアクション(購買や資料請求など)を起こしたユーザーの割合が分かる点。自社サイトの業績アップにつながる最適なキーワードを見つけられる。

(小川 弘晃=hrogawa@nikkeibp.co.jp)

表1●検索エンジン経由でアクセスしてきたユーザーの行動を解析する主なASPサービス
図1●検索エンジン経由でアクセスしてきたユーザーの行動を解析するASPサービスの仕組み
検索サイトや検索キーワードごとに,自社サイトの成果ページに到達したユーザーの割合(購買率や会員登録率など)が分かるのが特徴。ページに埋め込んだスクリプトがアクセス情報を解析用のサーバーに送る。図はECサイトの例。この場合,成果ページは購入ページとなる。ある検索キーワードを使ってアクセスしてきたユーザーのうち,実際に購入した(購入ページに到達した)割合が分かる。通常のログ解析ツールでは,アクセス数までしか分からない。
写真1●結果レポートの画面
セプテーニのASPサービス「WizWord」の例。検索キーワードごとに,そのサイトの成果となるページに到達したユーザーの数や割合が分かる。
写真2●コンテンツを強化するために検索キーワードを活用したリクルートエイブリックのWebサイト
予想外の検索キーワードがよく使われていることが判明し,そのキーワードに関連したコンテンツを追加することで成果を上げた。
 検索エンジン経由でアクセスしてきたユーザーの行動を解析する機能に特化したASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスが相次いでいる。3月にWeb行動解析ツールを提供するレッド・シェリフが「検索キーワード・メジャーメント」を開始。4月にはネット広告代理店大手のセプテーニが「WizWord」を,5月にはSEO(検索エンジン最適化)コンサルティング会社のミクスドが「SEO TRACER」を始めた(表1[拡大表示])。

 これらのサービスが提供するメインの機能はほとんど同じ。特徴は,検索エンジンや検索キーワードごとの「コンバージョン・レート」を測定できること。コンバージョン・レートとは,サイトにアクセスした訪問者のうち,サイトの実利に伴うアクションを起こしたユーザーの割合である。たとえばEC(電子商取引)サイトなら,ある検索エンジンから誘導されてサイトを訪れたユーザーのうち,購入申し込み完了のページに到達して成約したユーザーの割合を測定できる。

 解析の仕組みも共通している。解析対象となるページに,あらかじめ専用のJavaスクリプトを埋め込む。ユーザーがページを表示した場合,そのJavaスクリプトがアクセス・データを解析用のサーバーに送信。サイトの管理者は解析用サーバーにアクセスして,解析結果を閲覧する(図1[拡大表示],写真1)。

「ログ解析ツールではできない」

 Webサイトに訪れたユーザーの行動を解析するには,アクセス・ログを解析するツールがよく使われている。だが,「ログ解析ツールはこうした機能を備えていない」(セプテーニ STO事業部 シニアマネジャーの浦部 洋一氏)という。実際,ログ解析ツールを提供するベンダーは「検索エンジンやキーワードごとのアクセス数は集計できるが,コンバージョン・レートは測定できない」(「WebTrends」を販売するアズジェント)と話す。ログ解析ツール「SiteTracker」を販売するアスキーソリューションズによると,「コンバージョン・レートを求めるには,複数の解析結果を出力し,Excelなどでそのファイルを取り込み,集計しなければならない」という。

 新ASPサービスは,検索エンジンや検索キーワードごとの解析に特化しており,ログ解析ツールと比べると機能は格段に少ない。しかし,ログ解析ツールが苦手とする集計を手軽に低コストでできることが強みである。

Webサイトの強化に威力を発揮

 こうしたサービスを利用する最大のメリットは,業績アップにつながる検索キーワードを見つけられることだ。たとえばWebサイトを,業績が向上するように強化するために役立てられる。検索キーワードはユーザーの目的そのもの。つまり,ユーザーが自社サイトに何を求めているかが分かる。こうした情報が,Webサイトで強化すべきポイントを教えてくれる。

 実際,検索キーワードを活用して成果を上げたのが,転職情報サイトを運営するリクルートエイブリック(写真2)。行動解析にはレッド・シェリフの検索キーワード・メジャーメントを利用した。

 同社では,サイトに訪れるユーザーが使うキーワードの上位5番以内に,常に「職務経歴書」が入っていた。ところが,「このキーワードがこれほど利用されているのは予想外」(エイブリックNET編集長の川野 晋太郎氏)。そこで,職務経歴書の書き方に関するコンテンツを追加。4月25日から2週間,トップ・ページでも告知した。その結果「具体的な数字は言えないが,就職情報誌に広告を掲載したときと同程度の新規会員を獲得できた」(川野氏)。

 Webサイト強化のためのキーワードを選ぶ際,これまではキーワードの利用頻度の高さで選ぶしかなかった。だが,コンバージョン・レートが分かれば,より確実に業績アップにつながるキーワードの発見を期待できる。「今回は,(コンバージョン・レートではなく)利用頻度の高さでキーワードを選んだ。だが,より高い効果を得るためには,今後はコンバージョン・レートは欠かせない指標となる」と川野氏は話す。

キーワード広告のチューンにも有効

 また,最近注目を集めているSEOや“入札型”のキーワード広告で成果を上げるのにも効果を発揮しそうだ。

 SEOは,企業が希望するキーワードで,Googleなどの検索エンジンの上位に表示されるように,Webページを最適化する技術である。ソニーや日本ユニシスなど,昨年から採用する企業が増えている。

 “入札型”のキーワード広告とは,広告主が登録したキーワードと,ユーザーが検索サイトで入力したキーワードが一致した場合に,検索結果とともに広告を表示するサービス。広告の表示順位が,広告主が提示した支払額に応じて決まるのが特徴である。国内では,検索サイトを運営するグーグルと,キーワード広告を専門に手掛けるオーバーチュアが昨年開始した。

 SEOにしてもキーワード広告にしても,重要なのはどのキーワードを選ぶかである。この際,コンバージョン・レートが指標として役立つ。コンバージョン・レートの高いキーワードで検索結果の上位に表示されるようにすれば,アクセスの増加とともに,実利を伴うアクションを起こすユーザーの増加も見込めるわけだ。

 だが,こうしたASPサービスの普及には疑問の声もある。「特にSEOは一時的なトレンドに終わる可能性がある。検索エンジンに絞ったサービスが広く受け入れられるのか」(大手ネット広告代理店)との指摘だ。

 新サービスはまだ始まったばかりで導入企業はほとんどなく,実績もない。まずは,定価より安い料金で,かつ1カ月程度の期間だけ試用できるようなキャンペーンを展開しないと,企業は手を出しにくいかもしれない。