断りもなく送りつけられてくるスパム・メール。企業やエンドユーザーだけでなく,多くのISPも対応に苦慮している。強制退会されることを承知でサービスに入会し,大量のスパム・メールを配信する事業者が絶えないからである。そんななか,ぷららネットワークスは,スパム・メールに課金するという新たな対策を開始し,効果を上げているという。

(福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp)

 スパム・メールに悩まされて対策を講じているユーザーや企業は多い。ISP(インターネット接続プロバイダ)もその例外ではない。ただ少し違うのは,ISPは,メール・サーバーを使って大量のスパム・メールを配信されることに悩んでいるという点。しかし,配信数の制限やアドレスやキーワードによるフィルタリングといった技術的な対策では,スパム・メール配信を防げない。

 そのため,ぷららネットワークスのように新たな試みを始めるISPが登場している。スパム・メール配信で発生する大量のエラー・メールに課金することで,スパムを防ごうというのである。「大量配信メールの数は80%減少した」(ぷららネットワークス サービス企画部長の中岡 聡氏)という。

オンライン・サインアップを悪用

 スパム・メールによるISPの悩みは深い。スパム・メール配信事業者は,ISPが用意しているオンライン・サインアップの仕組みを利用してアカウントを作り,大量のメールをばらまく。強制退会させても,別のクレジット・カードを使って何度もサインアップする。オンライン・サインアップという,サービスを利用しやすくするための仕組みがあだになっている。

 大量のメールを配信するためにサーバーの負荷が高まり,ほかのユーザーのメール送受信に影響が出る。携帯電話のアドレスに配信された場合は,もっと深刻である。携帯電話事業者のメール・サーバーが,大量メール配信を検知し,一定時間接続を拒否。しばらくの間その携帯電話事業者あてにメールを送れなくなってしまう。

技術的な対策には限界が

 技術的な対抗策はいくつかある。たとえば,一定時間あたりのメール配信数を制限する方法。ただしこの方法を実現するには,ユーザーごとにメール配信数をサーバーが把握する必要がある。そのためには,メールを送信するユーザーが誰なのかをSMTPサーバーが認識できるよう,SMTP Authによるユーザー認証の仕組みを導入しなくてはならない。POP beforeSMTPによる認証では,SMTPでメールを送信する際になりすまされる可能性がある。スパム・メール対策のために,すべてのユーザーにSMTP Authを強要することになり,なかなか導入には踏み切れない。

 メールに含まれる文字列でフィルタリングするという手もある。しかし,最近のスパム・メールは,1通ごとに少しずつ本文の内容を変えて,フィルタをすり抜けてしまう。「イタチごっこになっている」(NTTPCコミュニケーションズの担当者)という。送信元のメール・アドレスでフィルタリングしても,同様にほとんど意味がない。

大量エラー・メールに課金

図1●ぷららネットワークスは大量のエラー・メールに課金する取り組みを開始した
通常,大量に送ったスパム・メールのうち,配送が成功するのは1~2%程度。残りの99%のエラー・メールに課金することで,スパム・メール配信事業者の配信コスト構造を崩すのが狙いである。

 そんななか,ぷららネットワークスは制度面からの対策を3月から実施している。不特定多数のあて先にメールを配信したユーザーから,エラー・メール1通あたり100円を徴収することを決め,利用規約に盛り込んだ。オンライン・サインアップの申し込み画面に,その旨を明示するWebページを用意。同意しないとサインアップできないようにした。

 エラー・メールならば,SMTP Authを使わなくても適用できる。インターネット接続時の認証記録などを基に,あとから誰が送ったメールなのかを調べられるからだ。

 ヒット率,つまり実在するユーザーにスパム・メールが届く確率は1~2%程度であるという。配信事業者にしてみれば,1000通のスパム・メールをユーザーに届けるためには,10万通のメールを送らなければならない(図1[拡大表示])。すると,9万9000通がエラーになり,1000通届けるのに990万円が請求されることになる。1通あたり1万円近いコストがかかる。このようなコスト計算であれば,スパム・メール配信ビジネスそのものが成り立たなくなるのでは,という狙いである。

 請求した料金の徴収はどうするのか,不特定多数の定義が明確ではないなど,課題はまだある。こういうこともあり,ほかのISPは,「今のところ考えていない」(ニフティ広報担当),「予定はない」(OCN担当者)と,静観の構えである。ぷららの対策は,そのISPにとっては効果があるかもしれないが,スパム・メールを受け取るエンドユーザーにはほとんど効果がない。ぷらら以外のISPを使って,スパムは相変わらず届くからである。

 一方,海外のISPも,スパム対策に動いている。米ヤフー,米マイクロソフト,米アメリカ・オンライン(AOL)は,スパム・メール対策で協力していくことを4月28日に発表した。ヘッダーが改ざんされたメールの送信元を突き止める技術や,第三者不正中継が可能なサーバーからのメールを禁止するといった技術の開発に取り組んでいる。身元を偽って無料メール・アカウントを作るユーザーへの対策も講じる。さらに,スパム・メール対策の技術標準やガイドラインを共同で作成する。

 また,IETF(インターネット・エンジニアリング・タスクフォース)は,スパム・メール問題を調査,検討するために,「アンチスパム・リサーチ・グループ(ASRG)」を設立した。受信者がメールの受け取りに同意していることを表明する方法や,スパム・メールを識別し排除する手法,スパム・メールの配信元を特定するための技術などについて検討する。今後,SMTPの仕様に盛り込む可能性もある。