G.992.5(ADSL+)も登場

表1●新しいADSL規格の特徴

 もう1つのG.992.5は,ADSL+やADSL2+と呼ばれていた。Annex I同様,ダブル・スペクトルにより下り通信を高速化。Annex Iと同程度の最高速度を期待できる。

 G992.5のベースになっている技術はG.992.3である(表1[拡大表示])。G.992.3は,通信品質向上と,伝送距離の延長を目的に,現在多くのADSLサービスで使用されているG.992.1を,改良した規格。ADSL2,G.dmt.bisなどとも呼ばれ,「ノイズの影響が大きい環境でも高速に通信できるよう,通信フレームを改良してある」(センティリアム・ジャパン プレジデントの高橋 秀公氏)。例えば,前述したSパラメータを,ハンドシェーク時に自動的に調整するような仕組みも実装されている。992.5には,こうした仕様が盛り込まれ,できるだけ安定したスループットが得られるようになっている。

ハードウエアの開発は始まっている

 これらの規格に対応したハードウエアは,早ければ今春くらいには出そろう。実際,G.992.5に対応したチップ・セットは,米クローブスパンヴィラータ,米センティリアムなどがすでに発表済み。それをDSLAM(DSLアクセス多重装置)などに実装すればサービスを提供できる状況にある。

 一方のAnnex Iについては,まだ公式に対応を発表したメーカーはない。ただ,Annex Iを構成する機能の要素は,大部分が既存の規格と同じ。ダブル・スペクトルはG.992.5と共通だし,ほかの部分はG.992.1 Annex Cと同じだ。このため,「G.992.5やG.992.1 Annex Cに対応しているチップ・セットを使えば,Annex Iにはすぐに対応できる」(富士通アクセス アクセスネットワーク事業部の福田 節氏)という。富士通アクセスなど,一部のメーカーは,Annex I対応DSLAMなどの開発をすでに始めている。

スペクトル管理基準問題も障害にはならない

 新しいxDSLサービスを提供するにあたっては,もう1つ気になる点がある。現在総務省で議論されている,スペクトル管理基準の問題である。これが決着しないと,新しいxDSL技術を使ったサービスが始められないのではという懸念はどうしても浮かぶ。ただ,Annex IやG.992.5に関しては,サービスを提供するにあたり障害になることはなさそうだ。

 スペクトル管理基準は,電話線を使う技術の干渉の度合いなどを把握し,お互いの影響を少なくするための取り決め。2002年11月に,情報通信技術委員会(TTC)が,JJ-100.01「メタリック加入者線伝送システムのスペクトル管理」というスペクトル管理基準を作成している。

図2●総務省で議論されているスペクトル管理問題は,下り通信帯域を広げる方式の障害にはならない
ソフトバンクBBが採用する方式では,オーバーラップ技術を使い,上り通信の帯域で,上りと下りの通信を重ねている。現在問題になっているのは,その際の下り通信が,ほかのADSLサービスの上り通信に大きく干渉するかどうかである。Annex IやG.992.5は,G.992.1のAnnex AやAnnex Cのスペクトル・マップをベースにしている。下り通信の帯域を広げることそのものは,スペクトル管理問題に抵触しない。

 この基準では,新しいxDSL技術についてほかの通信への影響をテストし,干渉が小さいものはNTTの回線収容ルールに基づいて第1グループに分類する。干渉が大きいものは第2グループに分類し,同一カッド内でほかのxDSLやISDNなどと混在させないという制限を課す。カッドとは,銅線2本で1対になっている電話線を束ねる単位のことで,通常は2対で1つのカッドである。

 カッドを分けることで,電話線を使うほかの通信への干渉は避けられる。それ自体は,歓迎すべきことである。しかし,第2グループに分類されると,わざわざ別のカッドを使わなければならず,NTTに支払う接続料金が高くなる。サービス料金も月額1000円程度高くせざるを得ない。仮に,G992.5やAnnex Iが第2グループに分類されると,サービス化の望みは薄くなる。

 ただ,議論の争点になっているのは,上り用に使う低い帯域での干渉である。ソフトバンクBB/ヤフーが使っているG.992.1 Annex A(旧称A.ex)の下り通信が,ほかのxDSLの上り通信にどの程度影響を及ぼすかだ(図2[拡大表示])。

 この点,Annex IとG.992.5は下り用の帯域を高い周波数帯に広げる技術。スペクトル・マップ上は,Annex IがG.992.1 Annex Cベース,G.992.5がG.992.1 Annex Aベースであり,まったく新しいものというわけではない。そのため,これらが新たに議論の対象になることはなさそう。サービス開始の妨げになる可能性は低い。

(福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp)