ADSLがさらに高速になる。2003年春か夏には,最高で20Mビット/秒を超えるADSL接続サービスが始まる可能性が出てきた。「G.992.1 Annex I」「G.992.5」という2つの新しい規格が標準化されそうだからだ。どちらも,使用する周波数帯域を2倍に広げることで下り通信を高速化する。一部のメーカーでは,今春出荷を目標に製品開発を始めている。

(福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp)

図1●G.992.1 Annex Iでは下り方向の速度を約28Mビット/秒まで高められる
下り通信用の帯域をG.992.1 Annex Cの2倍にあたる2.2MHzまで広げる。計算上は最高約28Mビット/秒で通信できる。
 20Mビット/秒を超えるADSL(非対称ディジタル加入者線)接続サービスが現実味を帯びてきた。1月31日,ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)が「G.992.1 Annex I」「G.992.5」という新規格を承認したからだ。

 G.992.1 Annex Iは,アッカ・ネットワークス,イー・アクセス,NTT,NEC,富士通,住友電気工業など,G992.1 Annex Cベースのサービスや製品を提供している企業が,高速化を狙って作成した規格。一方,G992.5は「ADSL+」と呼ばれていた規格である。どちらの規格も,伝送帯域をこれまでの倍の2.2MHzまで広げる「ダブル・スペクトル」を採用している(図1[拡大表示])。下り方向の最高伝送速度が,理論上,約28Mビット/秒にまで上がる。すでに一部のADSL機器メーカーは,2003年春~夏を目標に,製品開発を進めている。サービス化に向けた環境は早々に整いそうだ。

使用する帯域を倍に

 ADSLでは,「ビン」と呼ばれる多数の搬送波を同時に使うことで,大容量のデータ伝送速度を実現する。1秒間に4000回,つまり250マイクロ秒に1回の頻度で変調処理を実行し,データを送信する。送信するデータを15ビットずつに区切り,それぞれを別々の搬送波に載せて送る。Annex Cの場合,下り用には搬送波を223個使うため,250マイクロ秒当たり3345ビットのデータを送れる。理論上の伝送速度の上限は,3345ビット×4000=13.38Mビット/秒になる。

 ダブル・スペクトルでは,拡張分の1.1M~2.2MHzの間だけで256個,下り全体では479個の搬送波を使う。つまり15ビット×479個×4000回となるから,下り伝送速度は28.74Mビット/秒となる。

 このとき,最大255バイト(2040ビット)のブロック単位でデータを載せることになっている。255バイトとは,誤り訂正方式が扱う最大サイズから決まっている。G.992.1のデフォルト設定では,1回の変調にこの255バイトのブロックを1個だけ載せる(S=1)。つまり,2040×4000=8.16Mビット/秒にしかならない。

 そこで,Annex Iでは,1回の変調で255バイトのブロックを,3個(S=1/3)や4個(S=1/4)を載せられるようにした。S=1/3なら,伝送速度にして最高24.48Mビット/秒,S=1/4なら最高32.64Mビット/秒。ダブル・スペクトルの上限である28.74Mビット/秒をフルに生かせる。

 ただし,S=1/3やS=1/4を使うと,S/N(信号対雑音)比が悪くなるため,局から1km以内などと近いユーザーでないと,高速化の効果はあまり期待できない。


次回(下)へ続く