図1●利用者の宅内には専用TAを設置する IP電話番号と一般の電話番号の両方とも同じ電話機で着信できる。発信は,IP電話,一般の電話とも選択できるが,安価なIP電話を利用するユーザーが多そうだ。 |
IP電話のメリットは,会員間なら無料,一般電話相手でも全国一律と安価な料金にある。特に,無料で通話できる相手の数を増やすことが,IP電話サービスの魅力を増すことになる。
会員獲得で先行するYahoo! BBの「BBフォン」に対抗するべく2つのISP連合が誕生した。1つは,メガコンソーシアム(KDDI,日本テレコム,NEC,松下電器産業)の“4社連合”と,NTTコミュニケーションズ,ソニーコミュニケーションネットワーク,ニフティの“3社連合”だ。以下のように,参加社数は増加しているが,この記事では便宜的に4社連合,3社連合と呼ぶ。
2002年11月にメガコンソーシアム4社がIP電話サービスの相互接続を発表したが,その後,東京通信ネットワーク(TTNet),ASAHIネットなどが加わり12社となった。また,3社連合にも,松下電器とNECが加わった。この2社は,4社連合にも参加している。
VoIP網の運営はコモン・キャリア
両連合とも,ネットワーク構成はほぼ同じ(図2[拡大表示])。加入電話網を持つ第一種電気通信事業者(コモン・キャリア)がIP電話網を構築する。このIP電話網に提携ISPのネットワークを接続する。IP電話網は,各コモン・キャリアの加入者電話網へも接続する。
ユーザーの会員ID,IPアドレス,IP電話番号はIP電話網内のCA(コール・エージェント)が管理している。番号がダイヤルされると,TAはCAにその番号の所有者が利用しているIPアドレスを参照する。4社連合のように,IP電話網が複数ある場合には,CAの情報を共用する。
利用者宅内に設置するTAは,ADSL業者の通信方式に依存する。このため,各ISP連合が対応TAを用意しているADSL業者でなければサービスを利用できない。3社連合の場合,現状ではアッカ・ネットワークスとフレッツ・ADSLが対象だ。
一方,4社連合はやや複雑だ。イー・アクセスなら参加全ISPで利用できる。実は,4社連合が拡大した12社とは,イー・アクセスとその提携ISP11社,というのが実態だ。同社では,自社が窓口となりADSLやIP電話の申し込みを受けるワン・ストップ・ショッピングを目指している。
ISPによっては,自社でも直接IP電話の申し込みを受け付ける。この場合,そのISPが対応している全ADSLが利用できる,というわけではない。例えば,KDDIのDIONでは12Mビット/秒のADSLやTTNetなどの電力会社系のADSLは試験サービスの対象外だ。
同一ISPでも無料通話ができない?
3社連合と4社連合の両方に参加するNECと松下は“マルチキャリア志向”である。ほかにも,マルチキャリア志向を進めているISPもあるようだ。
しかし,現状の仕組みのままでは,BIGLOBEなどの会員が3社連合,4社連合の両方の会員とも無料通話ができるとは限らない。それどころか,同じISPの会員同士でも,接続先のIP電話網が違えば通話料無料というわけにはいかなくなる。数が魅力のサービスで自社の会員を分割してしまうことはありえないし,会員も納得しない。
解決する手はいくつかある。1つは両連合のIP電話網を接続することだ。もう1つは,同一会員が両方のCAに登録できる仕組みだが料金設定が問題。現状,IP電話の月額利用料,つまりCAへの登録するためのコストとして400円前後が想定されている。これを単純に2倍にしては,BBフォンどころか一般電話との競争力さえ危うい。
いずれの手法を採用するにしても,技術面ではなく,さらなる提携の拡大といった経営上の決断事項だ。それには,マルチキャリア志向のISPの発言力がカギになる。