SOHOへの指示・連絡を効率化

 デジタルフォレストは,社員と契約社員の連絡用に,米IBMのIM製品「Lotus Sametime」を利用している。同社の業務内容は,システムの受託開発やサーバー運用代行。SOHO 環境のエンジニアと契約し,バーチャル・カンパニとして業務を進めている。

 ところが,こうした環境では,システム開発の指示などは,SOHOの契約社員には伝わりにくい。メールではいつ指示が伝わるかわからないし,電話しても相手が不在なら意味がない。さらに,「システム開発に没頭しているエンジニアに電話をかけて作業を中断させてしまうと,生産性が低下する。このため,連絡は必要最小限に抑えたい」(社長の猪塚 武氏)という思いもある。

 IMを使うと,こうした点を解決できる。在席状況を確認できるから,相手が在席するときにリアルタイムに指示を伝えられる。複数の相手に同じ指示を伝える場合も,同報により1回の連絡で済ませられる。さらに,在席状況が作業中になっている場合は,連絡を控えるという運用も可能だ。

IMでの問い合わせが日に80件超

 一方,IMを使って顧客からの問い合わせを受け付ける仕組みを実現したのが東京スター銀行である。米ライブパーソンの企業向けサービスを採用した。顧客は,Webページ上で問い合わせのボタンをクリックして,IMアプリケーションを稼働させ,スター銀行の「CRM」センターに接続できる。

 目的は,取引の機会損失を減らすこと。問い合わせは,電話やメールで受け付けるのが一般的だが,メールでは返事がいつ来るかわからない。数回やり取りが発生すれば,あるサービスについて質問するだけで数日かかってしまう。といって,電話では,「ちょっと興味を持っている」という程度のユーザーには敷居が高い。この点,IMの方が気軽そうに見える。しかも,電話の代表番号のように,部門などの代表IDを持っておけば,スタッフの誰かがほぼ確実にIMでの問い合わせを受け付けられる。

 IMを導入してみると,やはりアクセスは少なくなかった。「IMでの問い合わせは1日に80件以上,多い日は100件を超える」(個人金融営業部 e-Banking室 アシスタントヴァイスプレジデントの長坂 浩江氏)という。

 前述したデジタルフォレストも,WebサイトでSametimeを使って顧客からの問い合わせにリアルタイムで応じるサービスを提供している。ここからの問い合わせが,受注につながったこともある。大浩電子も,EMSに対する顧客からの問い合わせ受け付けにIMを使うことを検討している。

企業向け製品/サービスでセキュアに

 IMを導入する一番簡単な方法は,一般ユーザー向けのサービスを使うこと。オンラインで書籍を販売するイーエスブックスは,社員同士,あるいは親会社であるヤフーとの連絡やオンライン会議にYahoo!メッセンジャーを利用している。

 こうしたサービスを使うとなると,メッセージ・ログの盗み見や機密情報の漏えいといったセキュリティなどの観点から導入に踏み切れない企業もある。ただ最近は,AIVY TalkやSametime,韓国のブルーバードオンラインの「Messenger Pro」など,IM製品が充実し始めている。製品を導入し,社内でIMサーバーを運用すれば,社員以外にログを盗み見られる心配は少ない。ログを記録しておくことで,社員による私用や機密情報の漏えいなども抑止できる。ロイターやライブパーソンが提供する企業向けサービスも,事業者と契約を結んだユーザー以外は利用しないため,比較的安全。遊び道具という感覚さえなくなれば,企業でのIM利用はもっと進むかもしれない。

(山崎 洋一=yyamazak@nikkeibp.co.jp)