「遊びの道具」から「業務に必要なコミュニケーション・ツール」へ――。インスタント・メッセージ(IM)を業務用に使おうという企業が出てきている。社員同士,あるいは取引先などと,在席を確認したうえでリアルタイムに連絡を取り合えるため,連絡がスムーズになる。Webサイトに組み込んで,顧客からの問い合わせにリアルタイムに応じている企業もある。

 (山崎 洋一=yyamazak@nikkeibp.co.jp)

 「インスタント・メッセージ(IM)なんて遊びの道具じゃないか」――。多くの企業に根強いこうした意識が,徐々に変わってきた。業務用にIMを利用する企業が次第に増えているのである。デジタルフォレスト,大浩電子,イーエスブックス,東京スター銀行など,いくつかの企業が,社員同士あるいは取引先との連絡,顧客対応などにIMを使っている(写真1[拡大表示])。最近では,ロイター・ジャパンが国内で企業向けのIMサービス「ロイター・メッセージング」を本格的に開始。金融機関を中心に,約130社がサービスを導入する意向を示している。

 IMは,パソコン間でテキスト・データをほぼリアルタイムに交換する仕組み(図1[拡大表示])。ヤフー,MSNなどが無料で提供しているメッセージング・サービスが代表的だ。IMサーバーでログイン中のユーザーを管理し,エンドユーザーは指定した相手とメッセージを直接やり取りする。

 リアルタイムにメッセージをやり取りするため,電話と同様に,相手が応答してくれさえすれば,すぐに返事を受け取れる。テキスト・ベースのメッセージ交換という点では,電子メールと同じように見える。しかし,メールでは,「確かに届いたか」「いつ読んでもらえるか」はわからない。この点,IMはメールに似た感覚で,電話のようなリアルタイムの対話を可能にする。

 同時に,電話にもメールにもない機能を備える。IMサーバーにログインしたユーザーの状態を把握できる在席確認の機能である。実は,企業ユーザーの間では,この在席確認機能に対するニーズが意外に高い。

写真1●企業のIM導入が進み始めた
写真は東京スター銀行がWebサイトでIMを使ってオンライン・サポートを提供している例。画像をクリックすると,CRMセンターにいるサポート担当者が応答し,質問に答えてくれる。
 
図1●インスタント・メッセージの特徴
電子メールと似た感覚でリアルタイムにメッセージをやり取りできる。通信相手がいるかどうか,メッセージをやり取りできる状態なのかといったことを確認できる。

在席確認で拠点間の電話代を節約

図2●企業でのインスタント・メッセージの利用形態の例
1つは,社内や関連会社のエンドユーザー同士がコミュニケーションする形態。もう1つは,顧客からの問い合わせなどにリアルタイムで対応する形態である。

 企業によるIMの用途は主に2通りある。(1)社員同士または社員と取引先の連絡,(2)Webサイトを訪れた顧客の問い合わせ対応である(p.59の図2[拡大表示])。

 EMS(電子機器の受託製造サービス)を手がける大浩電子(東京都世田谷区)は,神奈川県と山梨県にある工場の間でIMを利用している。アイビィ・コミュニケーションズ(東京都大田区)が開発したIM製品「AIVY Talk」を導入した。受託している製造注文は,必ずしも1つの工場ではさばききれない。このため,複数の工場で作業を分担するケースがある。当然,工場の間では納期の調整や部品在庫の問い合わせといった連絡が頻繁に発生する。このやり取りにIMを利用しているのである。

 きっかけは工場間の電話代節約だった。従来,電話でやり取りしていたときには,相手が不在で何度もかけ直すケースが多く,「用件1つ伝えるために何百円もの電話代がかかることが日常茶飯事だった」(取締役の秋月 聖行氏)。

 そこで,試しにIMを導入してみた。使ってみると,これが思いのほか便利。IMでは,通信可能な(サーバーにログインしている)ユーザーのリストと,それぞれの在席状況が表示される。「使用中」「会議中」「出張中」「帰宅」といった具合である。このため,社員は相手の在席状況を確認し,在席中なら即座に用件を伝えられる。もちろん返事もリアルタイム。込み入った話には電話を使うが,IMで在席を確認したうえでならほぼ確実に電話もつながる。結果として,電話の通話時間を月900分程度削減できたという。