ブロードバンド回線を使ったビデオ・オン・デマンド(VOD)サービスが本格化してきた。集合住宅賃貸のレオパレス21は,同社の賃貸住宅向けにハリウッド映画などを有料で配信。映画制作会社から配信許可が得られるように,セキュリティを強化した専用システムを構築した。TBSなど局放3社が中心のトレソーラと,バンダイチャンネルもテレビ番組などの有料配信を始めた。
(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)

表1●最近始まったおもなブロードバンド配信サービス
 家に居ながらにして,レンタル・ビデオが好きなときに見られる――。ブロードバンド・サービスを使った「ビデオ・オン・デマンド」(VOD)サービスがついに本格化してきた(表1[拡大表示])。

 賃貸集合住宅事業大手のレオパレス21は10月1日,同社の賃貸住宅居住者向けのVODサービス「LEO-NET」を本格的に開始した。8月に東京の一部地域で開始していたが,それを全国展開する。1本400円程度で,ハリウッド映画の話題作などをDVD並みの品質で見られるサービスだ(写真1[拡大表示])。「東京地域の約1000室で,9月には平均4~5本の視聴があった。出だしは好調」(レオパレス21ブロードバンド事業部ディヴィジョン マネージャーの奥井 宏太郎氏)という。2003年3月までに3万室に展開し,映画など3000タイトルを用意する予定。2004年3月までに10万室に広げる。5チャンネルのCS放送サービスと,インターネット接続サービス込みで月額基本料金は3000円だ。

写真1●レオパレス21の「LEO-NET」の初期画面
(C)2001 Warner Bros. Harry Potter Publishing Rights (C)J.K. Rowling. HARRY POTTER,characters,names and related indicia are trademarks of and(C)Warner Bros.

 東京放送(TBS)とフジテレビジョン,全国朝日放送(テレビ朝日)が中心となって設立したトレソーラは9月1日,毎月50~60本のテレビ番組が月額1000円で好きなだけ視聴できるサービス「Chance!@トレソーラ」を開始した。人気を集めた過去のドラマやバラエティなどをそろえ,11月末まで試験的にサービスする。バンダイチャンネルは10月1日,機動戦士ガンダム・シリーズなどのテレビ番組や映画の有料配信を開始。テレビ作品は1話100円,映画は1本300円で視聴できる。LEO-NETは同社の賃貸住宅に限定したサービスだが,トレソーラとバンダイチャンネルは,インターネット経由で一般ユーザー向けにサービスする。

“ハリウッド仕様”で配信

 レオパレス21は,レンタル・ショップで借りられるのと同じクオリティの映像コンテンツを提供できるように,配信システムを構築した。映像コンテンツが外部に漏れないようにセキュリティを強化し,ハリウッドの映画会社から配信許可を得られるようにした。

 ビデオ・サーバーを設置したNTTコミュニケーションズのデータセンターと,各賃貸住宅の間には専用のIP網を構築した(図1[拡大表示])。「インターネット経由の配信では,ハリウッド作品の提供許可が得られない」(奥井氏)からである。

図1●レオパレス21のVODサービス「LEO-NET」の仕組み
IP網を使い,ビデオ・オン・デマンド(VOD),CS放送(5チャンネル),インターネット接続のサービスを提供する。自社が管理する賃貸住宅の各部屋に,専用のセットトップ・ボックスを設置。ビデオを通常のTVで視聴できる。CS放送は,衛星回線を使いIPマルチキャストで配信する。

 各賃貸住宅には,NTT東日本/西日本のFTTH(ファイバ・ツー・ザ・ホーム)サービスの「Bフレッツ」を引き込み,地域IP網のIP-VPNサービスとNTTコミュニケーションズの広域イーサネット・サービスを利用して,各住宅とデータセンターをつなぐ。Bフレッツが利用できない地域では,ASDLサービスの「フレッツ・ADSL」を利用する。賃貸住宅内では,VDSL(超高速ディジタル加入者線)でLANを構築。各部屋に100BASE-TXのLANを引き込んでいる住宅では,それをそのまま使う。

 映像には,衛星放送向けと同様のスクランブルをかけて,専用のセットトップ・ボックスでしか見られないようにした。ベリマトリックス・ジャパンの電子透かし技術も採用。万が一コンテンツが漏れたときに,レオパレス21から漏れたかどうか判別できるようにするためである。セットトップ・ボックスは,韓国のIT'S TVの製品をベースに,電子透かし用のチップを載せるなどカスタマイズした。

PCのインターネット接続を2時間ごとに切断

 インターネット・サービスを提供する上でも,セキュリティに配慮した。

 インターネット・サービスを利用する場合は,各部屋でVDSLモデム,または100BASE-TXのポートにハブをつなぎ,そこにセットトップ・ボックスとパソコンの両方を接続する。接続したパソコンは,地域IP網などを経由し,NTTコミュニケーションズのデータセンターを経て,インターネットにアクセスする。このとき利用できるプロトコルをHTTP/HTTPS,FTP,SMTPだけに限定した。ファイル交換ソフトなどの多くは利用できない。

 さらに,原則として2時間ごとにインターネット接続を強制的に切断する。映像コンテンツをインターネットに流そうとしている恐れがあるからである。「映画会社からの要求で,そうした機能を持つゲートウエイ製品を具体的に指定された」(奥井氏)という。インターネットの利用を継続するには,パソコンの画面に表示されるダイアログ・ボックスでID/パスワードを入力する。インターネットをフルに使えるオプション・サービス(月額1000円程度)も検討中で,その場合VODサービスとは別のネットワークを用意する。

IPマルチキャストでCS放送を配信

 CS放送の配信には,IPマルチキャストを採用した。NTTサテライトコミュニケーションズの衛星マルチキャスト・サービスを使い,各賃貸住宅にコンテンツを流し,賃貸住宅内でもIPマルチキャストで各部屋に配信する(図1)。

 通常の衛星放送としてCS番組を配信することも検討したが,「コストが見合わない」(賃貸住宅内のネットワーク構築を担当したソリトンシステムズIPソリューション部担当部長の仲館 覚氏)と判断した。その場合,各部屋にCSチューナが別途必要で,数万室に展開した場合,チューナだけで数億円の投資になるからである。

 IPマルチキャストを実現するため,IT'S TVのセットトップ・ボックスをカスタマイズした。マルチキャスト配信の開始・停止を上流のルーターなどに指示するための「IGMP」(インターネット・グループ管理プロトコル)を実装したのである。セットトップ・ボックスは,CS放送視聴の開始時と終了時に,VDSL集線装置などに対して,マルチキャスト配信の開始・停止を指示する。

トレソーラなどは配信を委託

写真2●「バイダイチャンネル」の初期画面
バンダイ・グループが提供する機動戦士ガンダム・シリーズなどのアニメを配信する。
 
写真3●「トレソーラ」の初期画面
TBS,フジテレビ,テレビ朝日のドラマやバラエティ,歌番組などを配信する。

 トレソーラとバンダイチャンネルは,ディジタル・コンテンツだけを用意し,コンテンツの配信と課金は,ISPやコンテンツ配信事業者などに任せる(写真2[拡大表示],3[拡大表示] )。トレソーラのコンテンツは,NTTコミュニケーションズとドリームネット,ソニーコミュニケーションネットワーク,AIIの4社が配信。バンダイチャンネルの場合は,ニフティやBIGLOBE(NEC),BROBA(NTTブロードバンドイニシアティブ)などである。コンテンツはCD-Rやハード・ディスクに格納して,郵送などで各ISPに渡す。ネットワーク経由では送信しない。コンテンツの保護には,Windows Media TechnologiesなどのDRM (ディジタル権利管理)機能を使う。