ブラウザを搭載した携帯電話向けに,Webサイトの画像ファイルを変換して配信するアプライアンスが登場している。画像形式だけではなく,大きさや色数など,機種に応じた画像に変換して配信する。GIFファイルを生成したり変換したりするのに必要な,LZWライセンスを取得している製品もある。ASPサービスも相次いで始まっている。主に画像を多く使用するWebサイトで,これらの製品やサービスの利用が進んでいる。

(福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp)

表1●国内の主な携帯電話向け画像変換アプライアンス製品

 携帯電話向けに,Webサイトのコンテンツを変換するツールの導入が進んでいる。PC向けのWebページをアクセスしてきた携帯電話に最適化して配信する。なかでも好調なのが,画像ファイル変換専用のアプライアンスである。ピクチャーIQジャパンの「PictureIQ TranceForce Model 300」や,ライトサーフの「LightSurf eSwitch」,ピーシーフェーズの「LiveTo」といった製品である(表1[拡大表示])。携帯電話向けの画像をユーザーがわざわざ用意する必要はなく,PC向けのものを自動的に変換して配信してくれる。

 これらの画像変換専用製品を採用するメリットはいくつかある。携帯電話の機種ごとに色数や表示サイズを変換する機能を備える。また,画像変換処理をアプライアンスに任せることにより,変換時の負荷を軽減できる。

 さらにこれらの製品は,米ユニシスが持つLZW(Lempel Ziv Welch)圧縮方式の特許についても,ライセンスを取得していたり,代替機能を用意していたりする。安心して導入できる。

画像変換処理には高負荷がかかる

 画像変換ツールが必要なのは,PC向けのWebコンテンツを携帯電話向けにも配信したいユーザーである。iモード向けのWebコンテンツを,J-フォンやEZweb向けに配信したいというユーザーも同様である。

 インターネットに接続できる携帯電話は,表示できる画像ファイルの形式がキャリアによって異なる。また,携帯電話の機種ごとに,表示できる色数や表示画面のサイズも異なる。そのため,最適な画像ファイルを配信するには,キャリアごと,機種ごとの画像ファイルを用意しなくてはならない。画像変換アプライアンスは,元になる画像ファイルが1つあれば,それをアクセスしてきた携帯電話向けに変換して配信する。

 このような画像変換機能は,専用アプライアンス以外に,HTMLと画像の両方を変換するタイプのソフトウエアなども搭載している。画像変換専用アプライアンスがそれらに勝るのは,画像変換処理で安定した性能が発揮できる点である。

 そもそも画像変換は,サーバーに高い負荷がかかる処理である。HTMLファイルの変換も同じサーバーで処理する場合,画像変換処理の負荷によって,HTMLの変換処理が滞ってしまいかねない。画像変換処理がボトルネックになる可能性がある。アプライアンスでは,そのような心配は少なくなる。

画像ファイルへのリンクを修正

図1●「PictureIQ TransForce」は,PC向けのWebページにある画像ファイルを,携帯電話向けに変換する
画像についてのみ,リバース・プロキシとして動作する。変換した画像ファイルをキャッシュしておく機能も備える。

 画像変換アプライアンスの導入は,次のような手順である。例えば,ピクチャーIQジャパンのTranceForceの場合,Webサーバーのリバース・プロキシのように設置する(図1[拡大表示])。HTMLについては,iモードならコンパクトHTML,J-スカイならMML(モバイル・マークアップ言語),EZwebならHDML(ハンドヘルド端末向けマークアップ言語)に変換する仕組みを別途用意する必要がある。

 さらにシステム管理者は,HTMLなどのテキストに修正を加えなくてはならない。IMGタグにある画像ファイルへのリンクを変更する。TranceForceのホスト名と,それに続けて画像ファイルのURLを記述する。

 画像変換のメカニズムは次のようになっている。Webサーバーにアクセスした携帯電話は,まずコンパクトHMTLなどのテキスト・ファイルをダウンロード。次に,そこに記述してある画像ファイルを取得するため,TranceForceにアクセスする。TranceForceは要求を受け付け,Webサーバーから元になる画像ファイルを取得。User-Agentヘッダから携帯電話の機種を判別し,その携帯電話向けに画像ファイルを変換し,配信する。ライトサーフのLightSurf eSwitchとピーシーフェーズのLiveToもほぼ同様のメカニズムで動作する。

キャッシュ機能を搭載

 また,TranceForceはWebサーバーから取得した画像ファイルをキャッシュする機能を備えている。変換後の画像ファイルもキャッシュできる。どの携帯電話向けの画像キャッシュかを記憶しておき,同じ機種が同じファイルにアクセスしてきたら,キャッシュしておいた画像ファイルを渡す。変換処理が不要なため,高速に配信できる。初めての機種の場合は,キャッシュしておいた元の画像ファイルを変換し,配信する。Webサーバーから同じ画像ファイルを取得する時間を短縮する。

 LiveToも画像変換処理後のファイルをキャッシュする。ただしこちらは機種ごとの画像変換ではなく,キャリアごとに変換した画像ファイルのみである。LightSurf eSwitchは,元の画像ファイルのみをキャッシュする。数百種類もある機種ごとのキャッシュはディスクの浪費になるという考えである。

LZW圧縮方式のライセンス問題をクリア

写真1●「LightSurf eSwitch」は,LZW圧縮しない無圧縮GIFに変換できる
(a)元のJPEGファイル(30kバイト)
(b)LZW圧縮のGIFファイル(6.5kバイト)
(c)無圧縮のGIFファイル(8.7kバイト)

 このような画像変換ツールを利用する際に,注意しなくてはならないことがある。GIFファイルを変換したり生成したりする場合に,ユニシスのLZWライセンスが必要になるということである。

 LZWアルゴリズムは,GIF,TIFF,PDFなどで利用されているデータの圧縮方式である。これらのファイルを扱う際には,ユニシスからライセンスを取得しなければならない。ツールを利用している場合,そのツールそのものか,利用するユーザーがライセンスを持っている必要がある。コンテンツ変換ツールの中には,LZWライセンスについてうやむやになっている製品もあるようだ。

 TranceForceはLZWライセンスを取得しているため,ユーザーにはライセンスが必要ない。それに対し,LiveToはLZWライセンスを取得していないため,通常のGIFフォーマットを利用する際は,ユーザー自身がユニシスからライセンスを取得しなければならない。

 LightSurf eSwitchもやはり,LZWライセンスは取得していない。しかしその代替手段として,無圧縮GIFフォーマットをサポートしている(写真1[拡大表示])。LZW方式は,画像ファイルのピクセルをパターン化して取りまとめ,圧縮している。ブラウザなどで表示する際には,伸長して表示している。それに対し,無圧縮GIFではデータを圧縮しないため,ややファイル・サイズが大きくなる。また,画像が使用する色数がLZW方式の256色より少ない64色になってしまうものの,同じようにGIFファイルとしてブラウザに表示できる。

ASPサービスも登場

 同様の機能を実現するASPサービスも始まっている。富士写真フイルムの「Keitai Picture」,グローバルソリューションの「ピクチャー・トランスファーサービス」などである。

 Keitai Pictureは,富士写真フイルムが開発した画像変換エンジンを使う。LZWライセンスを取得しているASPである。利用するユーザーは,Keitai PictureのサーバーにあらかじめFTPを使って画像ファイルをアップロードしておく。携帯電話からアクセスがあると,その機種に応じた画像変換処理をして配信する。変換済み画像ファイルをキャッシュする機能も備える。

 このKeitai Pictureの特徴の1つに,配信した画像ファイルをユーザーがメールで転送するなどして流用するのを防ぐ機能がある。例えばJ-スカイであれば,PNGファイルはPNZ,JPEGファイルはJPZという拡張子をデフォルトで付与する。J-スカイでは,これらの拡張子のファイルは,メールに添付できない仕様になっているため,流用を防ぐことができる。iモードのFOMAとEZweb向けの画像ファイルには,コピーを防止するフラグを埋め込む。