複数のWebサービスを組み合わせて,新たな付加価値サービスを提供する――。そんな取り組みが本格化し始めた。富士通とNTT情報流通プラットフォーム研究所が4月にも実証実験を開始する。ECサービスで購入した商品を宅配サービスで自宅に送付するなど,複数のWebサービスにまたがる一連の処理を実現できるようにした。一方で,複数のWebサービスに対する利用契約や課金などを一元管理できるようにするソフトウエアも登場している。 

(実森 仁志=hjitsumo@nikkeibp.co.jp)

 XML(拡張可能マークアップ言語)などの標準技術を利用したWebサービスを複数組み合わせ,新たな付加価値サービスを提供する――。そんな取り組みが活発化している。富士通,NTT情報流通プラットフォーム研究所(以下,NTT研究所),ミュージカル・プランの3社は,ECサービスや物流サービスなどを組み合わせ,新人歌手のファン・クラブ・サイトを構築。一部のユーザーに利用してもらう実証実験を4月にも開始する。

 一方で,複数のWebサービスに対する利用契約や課金などの情報を一元管理するソフトウエアも登場した。米IBMが同社のWebサイト上で提供している「Web Services Hosting Technology」である。

Webサービスをまたいでトランザクションを処理

図1●複数のWebサービスを連携させて新たな付加価値サービスを提供する
富士通やNTT情報流通プラットフォーム研究所などが4月から実証実験を開始する。商品発注や発送手配など,複数のWebサービスにまたがる一連の処理を,一貫性を保って実行できるようになっている。

 富士通,NTT研究所,ミュージカル・プランの3社が開始する実証実験では,複数のWebサービスを組み合わせ,新人歌手である中川 晃教氏のファン・クラブ・サイトを構築する。実証実験の狙いは3つ。(1)性能面などWebサービスを構築/運用するうえで課題となる技術的なポイントを検証すること,(2)実際のユーザーに利用してもらいながら,Webサービスの構築/運用にかかるコスト,およびビジネス上の効果を検証すること,(3)Webサービス間で個別の接続条件や契約などを取り決めるためのビジネス・プロトコルを規定すること――である。

 実証実験では,会員情報を管理する会員管理サービス,プロモーション・ビデオを提供する動画配信サービス,楽譜を販売するECサービス,宅配事業者と仲介する物流サービスなどを組み合わせる(図1[拡大表示])。会員管理サービスで認証されたユーザーが,ECサービスで購入した楽譜を物流サービスを使って自宅に送ってもらう――といった一連の処理を実現できるようにする。

 複数のWebサービスを組み合わせて一連の処理を実現するには,各Webサービスに対する処理の一貫性をどうやって保つかがポイントになる。例えば,あるWebサービスの処理に失敗したら,それまでに実行した他のWebサービスに対する処理をまとめて取り消すなどの仕組みが必要になる。

 こうした処理を実現するために,実験システムではNTT研究所の開発したミドルウエア「eCo-Flow」を使用する。eCo-Flowは,Webサービス間のプロセス制御機能トランザクション管理機能を提供する。具体的には,Webサービスをどのような順番で呼び出すか,エラー発生時にはどのように処理するかなどを,XMLベースのスクリプトで記述する。Webサービスに対して実行した処理はすべて,データベース内に履歴として記録。一連の処理の途中でエラーが発生したときには,履歴に基づいて実行した処理を取り消す。物流サービスでの発送手配に失敗したときに,ECサービスへの発注を取り消し,クライアントに発注エラーを通知するといった処理を自動化できる。

契約や課金を代行可能に

図2●複数のWebサービスに対する契約条件や課金条件を一元管理
米IBMの「Web Services Hosting Technology」は,複数のWebサービスに対する課金情報を管理するソフトウエア。Webサービスごとに異なる契約条件や課金条件などを,一元管理できる。

 付加価値サービスを提供する場合には,エンドユーザーとWebサービスとの間に立って,利用契約や課金などを代行する必要が生じる。IBMのWeb Services Hosting Technology(WSHT)は,こうした処理を実現するソフトウエアである。

 利用法は,こうだ。Webサービスの提供者は,あらかじめエンドユーザーとの契約条件をWSHTに登録。エンドユーザーが契約内容に同意してWebサービスの利用を始めると,WSHTは契約内容に従って課金情報を集計する(図2[拡大表示])。エンドユーザーがWebサービスを利用した回数や時間に基づく従量制課金に加え,週単位や月単位などの固定制課金も可能である。

 WSHTの特徴は,それ自体が複数のWebサービスで構成されていること。ユーザー認証機能を提供する認証サービス,UDDI(汎用的な記述/発見/統合)レジストリを利用してWebサービスの情報を提供するカタログ・サービス,エンド・ユーザーに対する利用契約を管理する契約サービス,利用契約に基づいてアクセス・ログなどを解析して集計する課金サービス――などが,連携して動作する仕組みになっている。そのため,特定のサービスをカスタマイズすることも容易である。