業務用端末や車載機器に搭載

図2●社内からモバイルIPを使って移動するネットワーク機器にアクセス
IPが同じまま移動できるので,移動するネットワーク端末の遠隔操作や監視ができる。シスコシステムズは2001年12月,外部エージェントを階層構造にして,移動ノードを接続する外部エージェントを搭載した「モバイル・ルーター」の参考作品を公開した
 今後,業務用端末や車載機器などが固定のIPアドレスを持つようになると,モバイルIPの必要性が高まると見られる。IPアドレスを指定して,接続するサブネットを変えながら移動する業務用端末や車載機器を制御できる(図2[拡大表示])。例えば,在庫入力端末がモバイルIPに対応すれば,持ち歩く社員がどこにいても,IPアドレスを指定して情報を収集したり提供したりできる。

 シスコシステムズは,ネットワーク全体がどこへ移動しても,そのネットワークに接続する端末が同じIPアドレスで通信できる「モバイル・ルーター」を推進している。モバイル・ルーターは,モバイルIPの移動ノードと同じ役割を持つルーターで,配下にネットワーク機器を接続できる。

 モバイル・ルーターに接続するネットワーク機器は,固定のIPアドレスを持てる。2001年12月には,パスポート・サイズの車載用モバイル・ルーターを参考出品した。「シスコのルーターに搭載するIOS(Internetwork Operating System)は,以前からモバイルIPに対応していたが,2001年10月にモバイル・ルーターも対応した」(シスコシステムズ アライアンス&テクノロジー本部 先進ソリューション開発部 コンサルティングエンジニアの郭 宇氏)。

 これらの端末や機器には,おそらくIPv6のアドレスが搭載されることになる。現行のIPv4はアドレス数が少なく,こういった移動機器に1つずつIPアドレスを持たせるのは難しいからだ。

対応ソフトが増えている

 モバイルIPを採用するソフトウエアが増えている。松下電工が2001年10月に発売した米エクテルのモバイルVPN(仮想プライベート・ネットワーク)製品「Viatores」がその例である。Viatoresは,モバイル向けのVPNソフトウエアである。移動ノードとホーム・エージェントの間をIPSec(IPセキュリティ・プロトコル)を使ったインターネットVPNで接続する。IPアドレスを認証の一部分に使うなど,固定のIPアドレスを必要とする業務アプリケーションを利用できる。IPSecを組み込んであるため,IPアドレスのなりすましを防げる。

 クライアントはWindows98以降(XPを除く),エージェントはWindowsNT/2000サーバーで動作する。今春にも,Pocket PC用のクライアント・ソフトも提供する予定である。

 エルミックシステムは4月に,組み込みOS上で動作するモバイルIPクライアント・ソフト「Kasago Mobile IP」を出荷する。動作対象はWindows CE Embedded,同社製のITRON,米モンタビスタソフトウエアのMontaVista Linuxなど。同社が開発・販売する組み込みOS用TCP/IPプロトコル・スタック「Kasago TCP」上で動く。組み込みOSで動作する業務用端末や車載機器を開発すれば,モバイルIPに対応させられる。

エージェントの再登録時間が課題

図3●ノキア・ジャパンは2月にモバイルIPv6を使った実証実験を開始
モバイルIPv6の接続性を試す。また,地域的なホーム・エージェントに相当する「ゲートウエイ・モバイル・エージェント」を設置して,VoIPのハンド・オーバー(接続の切り替え)の実験もする
 モバイルIPの課題は,「移動ノードが違うサブネットに移動したとき,ホーム・エージェントに登録するために生じる遅延やパケット・ロス」(ノキア・ジャパンのノキア・リサーチセンター リサーチ マネージャーの中川 義克氏)である。大規模なネットワークほどその問題が顕著になる。

 ノキア・ジャパンが2002年2月から実施する実証実験「モバイルIPv6@ビルディング」では,この登録時間の短縮もテーマの1つである(図3[拡大表示])。IPv6を使った実験である。

 外部エージェントに相当する「リーフ・モビリティ・エージェント」設置。リーフ・モビリティ・エージェントとホーム・エージェントの間に,「地域エージェント」のような役割をする「ゲートウエイ・モビリティ・エージェント」を置く。移動ノードが同じネットワーク内にある無線アクセス・ポイント間を動いただけなら,ゲートウエイ・モビリティ・エージェントに再登録する。これで,再登録にかかる時間を短縮できる。VoIP(IPを使った音声通信)がどれだけスムーズにハンド・オーバー(接続の切り替え)できるかを検証する。

 ノキア・ジャパンではこれを「Regional Registration」と呼んでいる。Regional Registrationの概念は,現在IETFのMobile IP Working Groupに提案している。