急速に浸透しているADSL接続サービスが,さらに高速,低料金になる。新たにヤフーがADSL接続サービス「Yahoo! BB」を開始し,下り最高8Mビット/秒のADSLを提供する。料金も月額2830円と格安。これを受けて,アッカ・ネットワークスが同じ最高8Mビット/秒のサービス提供を明らかにした。一方で,東京めたりっく通信がソフトバンク・グループの傘下に入るなど,淘汰(とうた)も始まりつつある。

福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp

図1 ヤフー(Yahoo! BB)とアッカ・ネットワークスがはじめてフルレート(G.992.1)の本サービスを提供
これまで,フルレートを採用したADSLサービスの試験は実施されていたが,本サービス化に至っていなかった。

 ADSL接続サービスの高速化,低料金化が始まる。ソフトバンク・グループのヤフーが最高伝送速度8Mビット/秒のADSL(非対称ディジタル加入者線)接続サービス「Yahoo! BB」を,8月1日に開始する(図1[拡大表示])。6月末から試験サービスを提供中。ほかのADSL接続サービスよりも,数倍高速で格安である。アッカ・ネットワークスも,同じく最高8Mビット/秒でサービスの実証実験を7月末から実施する。本サービスを9月に始める。

 ADSL接続サービスは急速に普及しており,ユーザー数が6月末には約30万に達した。この背景には,事業者間の競争激化がある。光ファイバを使った接続サービスもADSLと競合する。8月1日にはNTT東日本/西日本の「Bフレッツ」がサービスを開始。有線ブロードネットワークスなどのサービスもある。ADSLサービスは,高速化,料金の低廉化が迫られている。

フルレート方式の規格を採用

写真1 「Yahoo! BB」で使用されているADSLモデム
G.992.1 Annex Aに対応している。

 Yahoo! BBとアッカのいずれもITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)が勧告したG.992.1(旧称G.dmt)を採用している。現在多くの国内のADSL接続サービスが利用しているG.992.2(旧称G.lite)よりも高い周波数を利用し,高速で通信できる。G.992.2はハーフレート方式ADSL,G.992.1はフルレート方式ADSLとも呼ばれる。

 ただし同じG.992.1でも,Yahoo! BBは北米向けのAnnex Aを,アッカ・ネットワークスは日本向けのAnnex Cを採用している。ADSLは伝送距離や銅線の品質,ISDNの電波干渉などの影響によって,伝送速度が低くなる場合がある。Annex Cは日本向けの規格であり,日本独特のISDNの影響を抑える機能が組み込まれている。

 ところが,Yahoo! BBが採用したのはAnnex A。Annex Aならば,ADSLモデムやDSLAM(ディジタル加入者線アクセス・マルチプレクサ)などを多くのベンダーが用意し,選択肢が多く,価格も安いからだ(写真1)。それに「ISDNもそれほど大きな影響はない」(ソフトバンク広報室)という。

 一方のアッカ・ネットワークスは,G.992.1のAnnex Cを採用。日本も市場が大きくなってきたため,「メーカーがやっと本腰をあげた」(アッカ・ネットワークス副社長の池田 佳和氏)という。Annex Cに対応した機器がそろってきたのである。ISDNの影響については,環境によるとしながらも,「伝送速度への影響は大きい。日本は特にISDN回線が普及していることもあり,ユーザーにAnnex Aのサービスを提供するには不安がある」(池田氏)と,見解を異にする。

ISP料込みで月額3000円を切る

 Yahoo! BBはサービス料金でも従来のADSL接続サービスを大きく引き離す。他社のADSL接続サービスが,ISP料金を含めて月額6000円程度であるのに対し,Yahoo! BBは2830円と格安。ISPのサービス料金やモデム,スプリッタのレンタル料金も含む。たとえ8Mビット/秒と高速でなく,1.5Mビット/秒であったとしても破格の安さといえる。メールやホームページといった基本サービスは,Yahoo!メールやYahoo!ブリーフケースなどといった既存の無料サービスを利用する。

 一方,アッカ・ネットワークスの最高8Mビット/秒のADSL接続サービスは,これから具体的なサービス品目や料金を検討する。ただし,「現行1.5Mビット/秒サービスより高い料金にはならない」(アッカ・ネットワークスの池田氏)という。

 料金の値下げの動きもある。NTT東日本/西日本の「フレッツADSL」が250円値下げしたのをはじめとして,ニフティや大塚商会などのISPも,サービス料金を下げている。

300万ユーザーで採算

 Yahoo! BBが月額3000円以下の低料金で採算が合うのかという疑問がでてくる。さまざまな事情があったとはいえ,ユーザー数が順調に増えていた東京めたりっくが経営難に陥った。その東京めたりっくの料金は,月額5500円にもかかわらず,である。さらに,三井物産や米リズムス・ネットコネクションズなどが出資したガーネットコネクションズ企画が,最高6Mビット/秒のADSL接続サービスの事業化を断念したという事実がある。こういった懸念に対し,「300万人程度になれば収支は合う」(ヤフー編集長の影山 工氏)とし,年内に100万人の加入を見込む。

 ところで,ソフトバンク・グループは,東京めたりっく通信を傘下に収めたが,当面は今まで通り個別のサービスとして提供していく。Yahoo! BBは個人向けのサービス,東京めたりっく通信はSDSL(対称ディジタル加入者線)サービスを中心に企業向けのサービスと位置付ける。ヤフーは,東京めたりっくが持つ技術やネットワーク構築のノウハウを吸収する。

G.992.1の実績はある

 ほかの事業者も,さらに高速なサービスの検討を始めている。東京めたりっく通信は,最高3Mビット/秒のサービスを検討している。当初からG.992.1を使って1.6Mビット/秒のサービスを提供。3Mビット/秒の試験サービスを実施中だが,「正式なサービス提供はいまだ検討中の段階」(東京めたりっく通信広報担当の平田 佳世氏)である。

 イー・アクセスも,G.992.1 Annex Cや,上下1.6Mビット/秒の最高速度を提供するG.992.1 Annex Hなどの,さらに高速なADSL接続サービスの検討をしている。また,韓国の大手DSL事業者の日本法人「コリアテレコム・ジャパン」と提携する。韓国では10Mビット/秒を超えるADSL接続サービスも提供されているため,高速なネットワーク構築のノウハウの共有を図る。